ハクの慈恵安泰婦人への想い
シュウシュウ様が、後頭部から血を流して気を失っている!
シュウシュウの名前を何度も叫びながら、いつだったか、シュウシュウが寺にいる時のことをハクは思い出していた。
黄蓮が寺の近くの古くからいる豪商たちが、王への毎月の貢ぎ物に反発しているとことを聞きつけ、シュウシュウに伝えた。
黄蓮とその息子のジーマが詳細を調べ、シュウシュウは慈恵安泰婦人という身分を目立たぬようにするために、質素な服に着替えて二人を連れて町へ出た。
話し合いのつもりだった。だが、シュウシュウが第一婦人よりも身分の高い、王に近い存在とそこにいる豪商の一人が気付き、自分たちの身を案じて慌てたその者はシュウシュウを屋敷に閉じ込めた。
ハクは王宮から数ヶ月ぶりにシュウシュウの元へと向かうところだった。寺につくと、黄蓮達どころか慈恵安泰婦人さえいない。
ジーマと黄蓮は豪商の屋敷でシュウシュウがいないことに気が付いたが、豪商の警護に囲まれていた。
ハクは多英にシュウシュウ達の行き先を聞きつけ乗り込んだ。
そしてハクは黄蓮たちと護衛を切りつけ、シュウシュウを探した。だが、シュウシュウは屋敷の綺麗所の下働きと売るということで、他へと移されていた所だった。
ジーマは若い青年だった。シュウシュウに何かあれば自身と親族一同の死となることはわかっていた。だから動揺していたが、父の黄蓮とハクが心底シュウシュウの安全だけを気にかけてることに気付き、すぐに自分を戒め捜索を続けた。
だがその当時、そんな些細な心の動きを知ったハクは、ジーマを切りつけたくなるほど頭に血がのぼっていたことを思い出したが、今の比ではない。
その時もハクと黄蓮は怒りに燃えていた。
すぐさまシュウシュウの居どころが分かった。だが、さらわれた場所で、品のない男が売り物である一人の娘を勝手に自分の部屋へ連れていこうとした。それを止めたのが慈恵安泰婦人であった。
王や国への忠誠心はないのかと、道徳心はないのかと説いた。男が笑いながら、下品なことを言いながらシュウシュウの腕を掴む。そして他の者は連れていかれるシュウシュウを見ていられずに、泣き叫んでいた。ハクはその声を頼りにシュウシュウを見つけてその場にいた男達を切った。
シュウシュウにハクは膝をついて遅れたこと、危険な目に合わせたことを謝った。
シュウシュウは静かに立ったまま、黄蓮とハクに何でもないと言ったが、その体はハクが驚くほど震えていた。
そして、手の震えが止まらないのとシュウシュウは言った。シュウシュウが健気に手をこすっているが震えは止まらない。ハクは立ち上がり、シュウシュウの背中と足に手をさっといれて抱き上げた。シュウシュウは何も言わなかった。ただただずっと震えていた。
他の娘たちがシュウシュウに御礼を言った。ハクはさっさとその場から離れたかった。シュウシュウを安全な場所へすぐさま連れていきたかった。
馬に乗るときも、シュウシュウを腕の中に包んだ。そのときのことをハクは思い出していた。
ああ、そうだ。あのときから私は主君以上の感情をこの方に抱いていたのだ。私の大事な人が 今!
目の前で血を流している!
ハクは人の気配を感じてばっと振り返った。
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