シュウシュウの涙

「シュウシュウ様どこか痛むのですか? 」



「えっ? 」



シュウシュウは自分が涙を流してることに気がついていなかったのでハクの言ってることがわからず眉を潜めた。


そしてふと、自分の視界がぼやけてそこで初めて自分が泣いてることに気がついた。



「やだ、何これ。何なの」



シュウシュウは慌てて手で拭いた。溢れる涙は止まらなかった。



「どこも痛くないわ。でもそうね、ちょっと頭が痛いかもしれないわ。首も…」



シュウシュウはゆっくり首を回した。そしてため息をついた。



「ただ、故郷から…。アザクラから離れたくないの。どこにも行きたくないの」



シュウシュウは火を見つめたまま、はっきりと言った。



「嫌なの。嫌なのよ。もう。何もかも。でも逃げられない」



シュウシュウは膝を抱えて座っていたが、とうとう顔を膝に埋めた。ハクが慌ててシュウシュウに手を伸ばすと脇腹が傷み、思わず呻いた。



シュウシュウは顔をあげ、ハクの肩に手をかけた。そして自分が着ている服を一枚脱ぎ、ハクにかけようとした。それから二人の距離はぐっと近づき、シュウシュウは自分の顔の前にハクの顔があることに気がついた。



そしてハクの目線は自分の唇にあった。



「どこを見ているのですか? 傷が痛みますか? 」



シュウシュウが心配そうに言う。ハクは我知らず囁いた。



「王の元へ行かなければいい」



「えっ? 」



ハクはシュウシュウを抱き締めた。ハクは軽く抱き締めたつもりだが、シュウシュウは全く身動きがとれなくなった。



「どうされました? 大丈夫ですか? 」



シュウシュウは抱き締められながらも、ハクの背中を少し動く手で、とんとんと叩いた。



この方は何にもわかっていない。ハクは思った。そしてこの柔らかくいい匂いのするシュウシュウが自分の腕の中にいることに胸が震えた。この方は本当に何もわかっていない。今から彼女に何が起こるのかもわかっていない。


ハクは片方の手で初めて会ったときのようにシュウシュウの顎を持ち、自分の顔を見るように向けた。わかっていた。ハクは最初からわかっていた。自分が我慢していたことを。



「どうされました? 何を…」



ハクが顔を傾けシュウシュウに口付けをしようとした。そしてその通りに優しく重ねたのだった。



ハクは冷たく甘いシュウシュウの唇を味わい、天にも昇る気持ちだった!


だが、すぐにハクの腕の中でシュウシュウがずしりと重くなった。



ハクが思わず目をあけると、目を瞑って自分に応えてくれていたと思ったシュウシュウは、気を失っていた!



シュウシュウが目を閉じかけたので、ハクはシュウシュウが自分を受け入れたと心を高鳴らせていた。だが、シュウシュウは頭を仰け反らせて、目を閉じたまま動かない。



「シュウシュウ様? シュウシュウ様! 」



ハクが揺らす。ハクは自分の手が濡れた感じがして驚いて手を見ると、シュウシュウの後頭部を支えてた自分の手のひらに血がついていた。





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