妃になんてなりたくない
「ねえ、一体、私達はどうしてこんなところに…」
「シュウシュウ様が山で迷われたと聞いたので私が探しに来たのですよ」
ハクが嘘をついた。ばれないように俯いたまま。
「まあ、なんてこと。あなたを私が巻き込んだという訳ね。ごめんなさいね」
シュウシュウが顔を寄せてきたのでハクは後じさった。女人に緊張することなどなかったのに! ハクは自分を罵った。
「わかるわ。きっと私、妃になる心が決まってないから逃げたのね。ああ、でもこんなことになって。多英に叱られるわ」
「……まさか、王の妃になりたくないですと? 」
ハクはびっくりして聞いた。
「もちろんよ。あなたはなりたいの? あはは、そんな顔をしないで! 例えばの話よ。王女の夫となりたいかどうか聞いたのよ。王はたくさん妻を持てるでしょう? 私は何人かの一人。私はね、ずっと愛し愛されたいわ。一人の人と。顔も知らない人に嫁ぐだなんておかしいわ。でも、后になれば王から愛されるのかしら。いいえ、やはり私はそうはならない気がするわ…」
「王から一番愛されるかもしれませんよ」
ハクは言った。そして頭に過ったことを口にした。「もしや、誰か想い人が…」
その声は低かった。
シュウシュウがそれを聞いて大きな声で笑った。その笑い声にハクはびっくりした。シュウシュウは笑って楽しそうに答えた。
「いないわ! いないのよ。でも、だからこそ、私は妃になんかなりたくないの。誰かを好きになったことさえないのに、妃だなんて。こんなこと、多英には言えないのだけれど」
シュウシュウは焚き火をじっと見つめた。
「王様も私がこんなにたくましい女だと知らないかもしれないわね。知ったらお嫌になるわ。私は火だっておこせるのよ。悪い人にだって、立ち向かうのよ」
ハクがくすりと笑った。自分にも刃を向けたことを思い出したのだ。他にもシュウシュウはどれだけ勇敢か、ハクは知っているつもりだった。今までもそうだ。そういうシュウシュウをハクは見ていた。弱く儚げなのに、他者のためには恐くても堂々と立ち向かう。
シュウシュウの態度は、普段は王の妃だからとハクは自分を戒めていたものの、ついつい今はくだけてしまう。
「笑ったわね? 信じてないのね? 」
シュウシュウはわざと拗ねたように言ったが、ハクは「いいえ、わかっています」と、優しい声音で言った。しばらくハクがシュウシュウを黙って眺めていた。
シュウシュウの目から涙が溢れたのでハクはびっくりした。
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