落ちた二人

随分と時間が経ってから、ハクは目を覚ました。



自分がどこで何をしているのかはわからなかった。ぼんやりとする目で周りを見渡す。


目の前には…どうやら小さな湧き水が流れている。頭を持ち上げる。ぐらりとする。


夜に違いないだろうが、ほんのり明るい。火の匂いを感じる。暖かい。木のはぜる音に気が付いた。自分が倒れていることにハクは気が付いた。洞穴のような場所にいるようだ。顔を傾けると、思った通り、小さな焚火があり、洞穴の大きな入り口が見えて外は真っ暗であった。



崖の上にふわりと浮かんだシュウシュウを見つけ、咄嗟に抱き留め、自分を盾として崖からずり落ちたハクだった。かなりの高さで、シュウシュウを抱えるだけで精一杯、崖で滑り落ちる形となり、受け身がとれなかった。


頭や肩、太ももも全て激しく打った。ハクは体を慎重に足先から動かした。手も動く。体も何とか起こせそうだ。そうだ、確か、あまりの衝撃に私は途中意識を失ったのだ。あの時、私は腕の力を抜いてしまったのか?


ああ、シュウシュウ様!


「…慈恵安太婦人! 」


ハクは叫んだつもりだが、かすれた声だった。思ったよりもハクは自分が声が出せないことに気付いた。かすれた声で何度もシュウシュウの名を呼ぶ。そして横になっていた体を起こそうとして、脇腹の痛みに気付いた。骨を傷めたようだ。それでも体を起こし、岩壁に背中を預けて今度は大きな声で叫んだ。



「婦人! シュウシュウ様! シュウシュウ様!」


洞穴の外から誰かがこちらへ歩いてくるのが見えた。ハクは自分の刀を探した。離れたところにあった。手を伸ばすには体が痛すぎた。


「まあ! 目が覚めたのですね! 」

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