豊穣の祭りにて

 シュウシュウは、与えられた身分に相応しいように頑張ろうと思っていた。



 そしてそれを、自ら負ってしまった怪我が元で思いがけなくハクの支えを得た。最初は冷たい印象しかないハクだったが、人民への配慮、個人を殺して国を見る。その姿勢をシュウシュウは自然と倣うようになっていた。


 黄蓮やその息子のジーマや多英に恥じないよう慈恵安泰婦人として、自分は王や国にシュウシュウは尽くしてるとシュウシュウは信じていた。



 ハクの自分を見る目は最初の蔑むような眼差しとは違う。暖かく、同士を見るような目だとシュウシュウは思っていた。だから自分は間違っていない。これでいいと思って過ごしていた。



 だが思いがけぬ砂瑠璃と再会。死んだと思っていた砂瑠璃。



シュウシュウの目にはいつでも砂瑠璃は逞しく、目が追ってしまう。少し目じりの下がった涼しげな目元。笑わない唇はきっといつもきつく結ばれている。彼が歯を見せ、シュウシュウへ声をかける時、シュウシュウの胸は高鳴るのだ。


 誰か砂瑠璃の仲間のひとりが結婚をして子供をもうけたという話をアカツキ殿がしていた。



 シュウシュウはその会話を思い出しながら、心が鉛のように沈んだ。




 砂瑠璃様もいつか、誰かを娶るのだろうか。



 そして子をもうけるのだろうか。



 シュウシュウは砂琉璃達が離れた後もずっとその考えが頭にひしめいていた。



 翌日になりシュウシュウは豊穣の祭りへと出掛けた。狩りの催しを眺める為に山へと登った。兵士達が用意された鹿などをうち、持ち帰る。


 シュウシュウは眠れぬ夜を過ごしたので目が赤かった。葉月が朝方、手拭いを渡しながらそのことを指摘すると、寝床が変わったからだとシュウシュウは答えたが、見るからに不調そうであった。



 シュウシュウの顔色の悪さは、祭りに参加していたハクも気がついた。



 ハクは長くシュウシュウと過ごしていたので、シュウシュウが我慢強く、自分を抑え、そして周りの民を思う立派な人間だともう解っていた。だからシュウシュウが自分からは不調を言い出さないと分かっていたので、浜辺のゲルが寒かったのですかといろいろ口うるさく尋ねた。


 シュウシュウは何でもないと聞かれる度にそう答えた。


 ハクはその言葉を信用していなかった。だが立場もあり、これ以上無理強いして聞くわけにもいかなかった。


 ハクとシュウシュウが並んでいると、宮中の者の目をひいた。二人の容姿が美しかったからだ。



 アカツキと砂瑠璃も遠目から二人を見た。



 絵になる姿だなとアカツキがぽろっと溢すと、先程まで相づちをうってたはずの砂瑠璃の姿がいつしか消えていた。アカツキは驚いて周りを見渡したが、自分の言葉を思い出して顔をしかめた。そしてまた、ハクとシュウシュウを遠くから眺めたのだった。



 第一婦人の凛々もシュウシュウ達を見ていた。二人が周りの注目を集めてることに苛々したが、どうせまた寺へと帰るシュウシュウだ。嫉妬してどうする。璃々はふんと鼻をならした。そうして、狩りの最中に事故にあえばいいのにとも思った。



 シュウシュウは、シュウシュウ自身が思うよりずっとぼんやりととしていた。



 そして狩りを眺めていたシュウシュウは、知らずに崖のきわまで歩いてた。そして興奮した誰かに背中を押されてしまった。ふわりと体が浮いたと思うと、次のときには空を見ていた。



「ああ、私は落ちるのだ」



 シュウシュウが逆さまに空をみた。そう思うと同時に自分にめがけて飛び込む男の姿が目に入った。



 甲冑を着た男がシュウシュウの体を空中で抱き止めた。


 シュウシュウは「ああ、そこまでして自分を守らなくていいのに」と男の腕の中でぼんやりと思ったが、すぐに気を失ってしまった。



 そしてそのまま二人して崖から落ちていった。



 甲冑を着た男は、ハクだった。




「ハク様が落ちた! 」



「慈恵安泰婦人を守ろうとしてたぞ」



「誰が慈恵安泰婦人を押した !?」



 ハクの部下達が口々に叫び、女官達の悲鳴も上がった。王もパナンも凛々も驚いていた。そしてハクの部下が一番大声で叫んでいた。


「ここからは人の足で降りれぬ! 馬を出せ! 下へ回れ!ハク様を助けるんだ! 」


 ハク腹心の部下の己龍が大声で叫ぶ声が落ちていくハクの耳に聞こえた。







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