砂琉璃の想い


 砂琉璃は人一倍良い視力にて王宮では、しっかりとシュウシュウの姿を目に焼き付けていた。あれから四年近い日が過ぎている。



 砂琉璃はシュウシュウが王との子をなして幸せに暮らしているとばかり思っていた。幸せに笑うシュウシュウの想像ばかりしていた。


 そしてシュウシュウの事を一度も口にしなかった。耳にもしなかった。それはアカツキ達の配慮であったことを砂琉璃は凱旋の途中で気付かされた。




 戦で勝つことだけしか考えてないと思われていた砂琉漓がトバリとともに帯飾りを買い、トバリとアカツキを驚かせたのは分かっていた。実を言えば、愛らしい帯飾りをみてシュウシュウを思い出していた。だからこそ砂琉璃はシュウシュウに渡すことを夢見た。


 砂琉璃は女に疎かった。シュウシュウのことしか考えていなかった。渡す渡さないはともかく、明るい緑とだいだい色の帯留めは砂琉漓にシュウシュウを思い出させたのだ。



 アカツキとトバリは、シュウシュウが婚儀の日に怪我を負い、生死をさ迷い、そしていろいろ経て慈恵安太婦人となったことを知っていたが、二人はそれを砂琉璃にひたすら隠し通していた。


 トバリがガビを殺め、先に帰還したときも、アカツキは砂琉璃にシュウシュウの話をしなかった。勿論、砂琉璃からもシュウシュウの話を口にすることはない。一度もない。




 アカツキは砂琉璃と王宮へと戻る道すがらに思い切って砂琉璃にシュウシュウの話をしたのだった。全くそのことを知らなかった砂琉璃の驚きは深かった。砂琉璃は馬上にて暫く目を閉じた。


「シュウシュウ様の怪我は…」


 暫くの沈黙のあとにうめくように砂琉璃が言うとアカツキは、療養に一年ほどかかったが今は元気であること。立派に民の為に尽くしてらっしゃると砂琉漓を励ますように答えた。



一年も療養が必要だったとは…と、砂琉漓は奥歯をグッと噛み締めた。



 傷は癒えて慈恵安太婦人となり遠くの寺院にて活躍していることをアカツキは砂琉璃に務めて明るく話した。だが、砂琉璃何も答えず、長い沈黙だけが流れた。


「もう、王女や王子に恵まれて穏やかに暮らしていると思っていた」


 砂琉璃がしばらくして傷ついたように囁く。アカツキが答える。


「なに、砂琉璃。シュウシュウ様はもう誰よりも貴い地位にいるのだぞ。そんな話はもう似合わない」


 砂琉璃はそれから何も言わなかった。


それきりずっと黙ったままだった。アカツキはトバリも不在で砂琉璃は寡黙な上に傷ついているのか怒っているのかもわからない。アカツキは道中、王宮に着くまで砂琉璃をそれからわざと避けた。


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