浜辺にて

 海辺には点々とゲルが張ってあった。白い立派な大きなゲルには、それぞれに王と婦人達がいた。シュウシュウこと慈恵安太婦人もだ。


 今年一年の漁、そして狩猟がうまくいくようにと行事が行われる。



久しぶりの行事で、数日かけて大々的に行われた。まずは海の神を祭る。


 浜辺と水平線を遠くの丘から砂琉璃達は眺めていた。


 シュウシュウは、パナンや璃々の子供達や大勢の侍女をひきつれて海を眺めた後にゲルへと戻るところであった。



 ゲルの布が海風に音をたてる。子供達は垂らした髪が千路に乱れて喜びの声をあげた。シュウシュウはそれを微笑ましく見た。そして彼女の目は、すぐさま丘の上にいる馬上の砂琉璃を認めた。


 何年も見ていなかったというのに、シュウシュウには砂琉璃がすぐに分かった。誰よりも目立って見えた。一瞬のことで誰も気づいていなかったが、シュウシュウが砂琉璃を見たことは誰も気づかなかった。勿論、砂琉璃や砂琉璃ひきいる兵士達もだ。


 また砂琉璃にとっても、美しく着飾り、そして完璧にまで宮中ならではの化粧を施したシュウシュウは、今までの姿とがらりとかわり、慈恵安太婦人の名に相応しく神々しくもみえた。



「第一婦人に挨拶を。いや、階級からいって・・・その前に慈恵安泰婦人ですね」


 王宮にて将軍に任命された為に砂琉璃に敬語で話すアカツキだった。砂琉璃は返事がなく、アカツキは戸惑ったが返事を待った。暫く間が空き、海風に音で聞こえないのかとアカツキがもう一度大きな声で言うと「ああ」としっかりした返事が返ってきた。



アカツキはほっとした。



「そうだ、トバリが王宮近くに屋敷を構えたそうだ。子供もいます。トバリにもまた挨拶にいきましょう」



「子供か。もちろんだ」



砂琉璃は答えた。だが、視線はずっと、シュウシュウだった。



何年も戦に明け暮れ、ほほの下には耳までかけてうっすら三日月を横にしたような怪我が新しく砂琉漓には刻まれ、体にはそれ以上の傷痕だった。砂琉璃は急に自分が汚らしく感じるのだった。だが、顎をひき、アカツキとシュウシュウのゲルへと挨拶に向かった。

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