砂琉璃とシュウシュウの再会

 シュウシュウのゲルにはパナンや他の王妃の子供達が来ていた。



 パナンは二人目の子供に恵まれており、男の子で二歳になる手前。可愛い盛りであった。当時、王との子はもの成せないとパナンは信じていたが(それは第一婦人もであった)嬉しい誤算ではあったが、パナンは男子が生まれた事で常に不安を抱えていた。



 パナンの女児の方は弟の世話を甲斐甲斐しくしていたが、弟の為というより今回集まった大勢の大人に誉められたいというのがよくわかった。パナンもシュウシュウもそれを微笑ましく思いながらみていた。


 パナンが、二人目の子供が男子であるのを誇らしげに話したりすることもあれば、悲しそうに話したりもするので、そんな情緒不安定なパナンがシュウシュウは不憫に思えるのだった。


「砂琉璃将軍が挨拶にみえました」


 下女が頭をさげる。シュウシュウの時は止まった。だが何も顔に出さずに「お通して」とだけ言った。葉月や多英もいた。二人は黙っていたが、葉月だけは、多英やシュウシュウをそわそわと見ていた。


「慈恵安太婦人。砂琉璃が挨拶に参りました」


 シュウシュウは椅子に座りながら、ゆっくりと砂琉璃と目を合わせた。死んだと思っていたのに。こうして変わらない姿でまた会えるとは…。太い眉も、大きな体も、暖かそうな眼差しも全て変わらない。顔には傷が増えたものの、シュウシュウは砂琉璃が一層逞しくなっていることに気付き、我知らずときめいていた。


「活躍は聞いています。こたびの働きは…」


 子どもが入り口の方でわっと騒ぐ声がした、付き添いの乳母に嗜める声がする。


「パナン様や第一婦人の王子達が遊びにきているのです。騒がしくてごめんなさいね」


 シュウシュウが笑うと砂琉璃は無表情のまま「いいえ」と言っただけであった。そして、長い沈黙。




 そこいた付き添いの女官達は、砂琉璃の大きな体と不愛想さと砂琉璃に纏わる恐ろしい噂話を聞いているので、恐がっていた。



 シュウシュウだけ微笑んでいふ。砂琉璃の後ろのアカツキは顔立ちが良いので女官達はウキウキと眺めていた。




 黙っている砂琉璃の代わりにアカツキがパナンの男子誕生を祝う言葉や、子供達の元気の良さを誉め始めるとシュウシュウがそれを笑顔で頷いた。砂琉璃はシュウシュウを黙って見ていた。そして、アカツキがもうそろそろ退出をしようと砂琉璃の方を見ると、砂琉璃がいきなりシュウシュウに話しかけたのだった。

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