ガビの最期 

「こ、こ、これはどういうことだ? 」


 昼間から飲んではいたゴスは自分の頬をたたいた。そして、隣で白髪を頭の上で結んでいた村長も叫んだ。


「あの者はまさか、あの者は・・・ガビではないか! それから、あ・・・なんてことだ! その許嫁のエイマだ! なぜ!こんなことが! おお、何て酷い!若い娘が・・・穏やかなエイマまで・・・」


 アカツキがゆっくりと振り返った。ゆっくりと、だがしっかりとした口調で話し始めた。


「このガビという娘が、うちのトバリを好きだと。それをたった今知ったこの男が逆上して、この娘を刺したのです」


「なんと・・・! ガビは家族の働き手だったのに・・・。あの家族になんといえば・・・。優しいエイマが逆上したのか? エイマの親にもなんていえば・・・。いや、それじゃあエイムは誰に? 」


 アカツキは続けた。嘘はすらすらと出てくる。顔色一つ変えない。砂琉璃もまたじっと耳を傾けた。


「この者がガビが倒れて呆然としているトバリに襲い掛かってきたので・・・私は切る他ありませんでした・・・」


「なんと・・・」


 村長は深い皺のある顔を悲しげに歪めた。


「うちの村の者が、そんな・・・」


ゴス率いる匪族の一人が後ろから人を押し退けて出てきた。そしてガビとエイムの死体を見た。


 そして静かに座ったまま涙を流す若く純朴そうなトバリを見てから、そっとガビの側でひざをつき、彼女の瞼をそっと閉じ合わせた。それを見たトバリがガビの元へと呆けた顔で動こうとしたので、アカツキが皆に気付かれないようにそれを制した。男は膝をつきながらいった。 


「ガビ。愛くるしい女だった。男は俺だけではない、と思っていたがいろんな男を手玉にとっていたのだな。だが、正直な女だった。匪賊の妻にはなれないと俺には言ってくれたな。純粋そうな顔には似合わない、自由な女だったな。おい! 遺体に布をかけてやってくれ! 寒そうだ! 」


 アカツキはトバリを連れて外へ出た。


 そして、トバリに付き人をつけて宮中まで返すことにしたのだった。馬に一人でも乗れない状態だったので、数人の信頼できる部下をつけた。砂琉璃とアカツキはトバリを見送った。それから三年、砂琉璃はアカツキ、ゴスたちと残った兵士とで、西海の拠点を次々と占拠していった。



 砂琉璃はこの三年でますます名を上げて、体つきもたくましく、ガンムと同じく「戦神」の名前を手に入れていた。その頃、宮中へ戻れとの文を砂琉璃は受け取った。栄誉の凱旋だった。

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