アカツキの勘

「どうもおかしくないか? 」

 アカツキが砂琉璃に言う。

「何がだ? 」

「何がって、何もお前は思わないのか? 」

「だから何をだ 」


 砂琉璃とアカツキは隠れ家を片付けていた。そして集落へ向かい屋敷で匪賊のゴス達と会うのだ。



 もう、岩場で隠れる必要もなくなった。トバリは一足先に屋敷に行っていた。砂琉璃は待っても待ってもアカツキがなかなか本題に入らないので出立する準備する手を止めた。


「本当にあのガビとかいう小娘はトバリを愛しているとお前は思うのか? 」


 アカツキが唐突に言った。


「違うのか? 」


 砂琉璃はべったりとトバリにくっついていたガビの様子と、だらしなく笑うトバリを思い出しながら驚きつつ答えた。


「ああ。トバリといい、お前といい、お前たちは本当に女心を知らないのだな」


「男だからな」


 砂琉璃がむっとして答える。アカツキがはっと笑う。


「いや、だからな? 女は男の見目やらで恋はしない。男の権力に心奪われるものだ」


「そうなのか? 」


 砂琉璃が眉をひそめた。


「ああ。そういうものさ。誰だって権力の虜だよ。男も女も。第一婦人を見てみろよ?」


「アカツキ」


 砂琉璃が静かにアカツキを嗜めた。


「ああ、すまない。だがここは隠れ家の洞窟だぞ。俺達だけだ。いや、すまない。そろそろ行こう。俺はただ、トバリが心配なんだよ・・・。あの小娘のガビがな。あの娘にトバリがいつだったか帯留めをやったのを覚えていないか? 」

 

 砂琉璃は黙った。勿論覚えている。ここの集落に入る前に、商人の振りをするときに商人から東新の衣装や商品を荷台ごと買い取った時、「流行りの帯留めです」と言われた緑とだいだい色の腰に差す飾りが愛らしく、砂琉璃もトバリと同じようにそれを買ったのだった。(馬も荷台ごと手に入れたのだが)


 トバリはその頃出会ったばかりのガビにすぐに渡しに行ったのだった。


 砂琉璃までが買ったのを見て、アカツキとトバリは驚いたが見て見ぬふりをした。



シュウシュウ様にあんな粗末な物をあげてはならないと、本当はアカツキは注意をしたかったができなかった。トバリはトバリで、王の婦人に「帯飾り」をひとつだけ差し上げるとは命に関わるぞと言いたかった。



砂琉璃があげるとしたらシュウシュウに違いないと思ってはいても、渡すことはないだろう。渡せるはずがないと信じて二人はそのことに触れることはしなかった。



 砂琉璃は片付け終わり、荷を背負い、何事もなかったように歩き出した。アカツキも急いで隣に並ぶ。砂琉璃を見る。砂琉璃は前を向きながら答えた。


「覚えているさ。我々が屋敷を出た時、ガビという娘に渡しただろう。喜んでいたじゃないか」


 その時の幸せそうなトバリの顔をも思いだし、砂琉璃は微笑んだ。そして自分はなぜ、渡すことのない帯飾りを買ったのかと砂琉璃自身はわからないまま胸が痛むのだった。



アカツキは神妙な顔をしてたが思いきって口を開いた。


「砂琉璃。あの後だがな。あの娘はあの帯飾りを人にやってたよ」


「何だって? 」


 砂琉璃が驚いて足を止めた。


「屋敷の下働きの女中仲間にな。あんな安物、皆が同じ物を持っていて、恥ずかしいだとよ。俺はこの耳で聞いて、目でも見た」


「・・・そのことをトバリに話したか? 」


「いや。トバリはおそらくこの作戦も終わればガビに結婚を申し込むはずだ。俺はこんな大事なことをあいつに話さないのは、卑怯な気がしてる」


「急ごう」


 二人は集落へと走った。


 

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