打ち明けるトバリ

 トバリは幸せの絶頂にいた。初めての恋、ガビに夢中だ。



そして匪賊達とアカツキと砂琉璃も打ち解けていった。もはや匪賊に本当の身の上を明かしても大丈夫なほどであった。それほどまでに匪賊の族長であるゴス(元は東新の武士)と意気投合していた。


 トバリはガビと少しでも時間が合えば逢瀬を重ねた。ある日トバリはすっかりガビは自分を愛しているのだと思い、ガビに本当のことを打ち明けたのだった。


「ガビ。お前は前に私がアカツキと名が似ている、兄弟なのかと聞いてきたことがあったね」



「ええ、あったわね。他人だとは思えないわよ。暁とトバリだなんて。母さんが聞いたら笑うわよ」


 ガビは服も整えずに肩もあらわのまま、トバリにしなだれかかっていた。


 トバリが息をのむのが分かった。ガビは知らんふりしてわざとらしく体をこすりつけた。


「何よ、何が言いたいの?」とゆっくりと耳元で囁いた。


 トバリはそっとガビの服を正した。トバリがそんなことをすると夢にも思わなかったガビは目を丸くした。情熱的にむしゃぶりついてくるのがトバリだとガビは信じ込んでいた。ガビは我慢強くないのでじれて言った。


「本当にどうしたの?」


「ああ、ガビ。以前、お前は私をアカツキと同じ豪商の出だと聞いてきたね。私は否定も肯定もしなかったが、君が肯定と受け取ったのは分かってたんだよ」



「ヒテイ?コウテイ?コウテイって?どういう意味よ」



「ああ、ガビ、つまり、君は私を豪農の出だと思っているかい?思ってるんだろ?」


「もちろんよ、違うの? ねぇ、あなたは私があなたに金持ちかと聞いたら『そうだ』とちゃーんと答えたわ。覚えてるわよ! 忘れる訳ない! だから、一体何なの!?」


 ガビは捲し立てた。そして眉をひそめた。


「ねえ、もしかして、本当は違うの・・・?」


 トバリはガビが怒っているのが分かった。慌てて言った。


「いや、アカツキのような豪商ではない。ただの鍛冶屋だ。だが、決して貧しい訳ではないよ……」


 トバリは言い訳をつらつら並べ始めた。だがまとめるとアカツキのような金持ちではない。貧しい子だくさんの鍛冶屋の息子とガビはすぐさま理解した。


それを知ったガビは怒りで口も聞けなかった。ガビの鼻息だけが響く。だがトバリはガビを見ずに喋り続けたので怒りに震えるガビに気付きもしなかった。


「トバリ。今はその話はやめましょう。私、少し頭が痛いの」



「ガビ!そんなことを言わないでくれ!!」



 トバリが叫んだ。ガビはにっこりと笑った。



「下の妹が咳をしてるの。早く帰れと母親に言われてるの。飲み薬を途中で買わなきゃいけないのよ」


「え? そうなのか。そうか。ならば、仕方がない。だがまた説明させてくれるよね? 」



「ええ、もちろんよ! 」


 ガビはまたもやにっこりと笑った。こういう時はとにかく相手の言う通りにするのが一番だ。別れに慣れてるガビは演技した。トバリはそれを信じたのだった。

 


 それから幾日か経った。西海の兵士への盗伐に手を貸すとゴスとアーレンの約束を取り付け、意気揚々、砂瑠璃たちは集落のお屋敷に呼ばれ、皆で宴を開き騒いでいたときのことであった。


 

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