田舎娘のガビ

 トバリは翌日もまた屋敷へと足取りも軽く戻った。


 アカツキの言った言葉をトバリは考えた。ガビは危険な匪賊とつながりのある屋敷の下働きに出るような、向こう見ずで野心家であった。


 山育ちのまっしろの肌。薄い唇にいつも真っ赤な紅をひいている。トバリが自分に気があるのを知っているようで、最初からトバリを翻弄した。ガビは最初からこうも話していた。


 「なんでこのお屋敷で働いてるかわかる? 私の夫となる人をここでみつけるの。

 


え? 屋敷の人の中から? もちろん、違うわ。私みたいな地位の女は屋敷の人間なら下働き同士くっつけられるだけ。実をいえば、私の村で私の相手はいたわ。わりと大きな家ではあったわね、幼馴染よ。でもね、トバリ様。私は金銀財宝を隠し持ってる匪賊のうちの誰かを夫にするの。わかる? 高い身分なんて、欲しかったこともあったけど、とにかく金を持てばそんなのどうでもいいわ。ねえ、ところで、砂琉璃様やアカツキ様達は・・・・」


 そこでガビははっとしたように、わざとらしくトバリ様は? と小首をかしげた。


 トバリはガビに赤い唇が動くのを目で追うのにやっとだった。



なので、「えっ?」と呆けた顔で答えた。その初心さがガビの心をくすぐった。ガビはトバリにしなだれかかった。


「あの二人がお金持ちで軍人というのは分かったわ。でも、あなたはどうなの?

私を幸せにしてくれるくらいお金がある? アカツキ様は豪商の生まれと言ってたわよね。じゃ、あなたも? 」


 そう囁くガビの唇はトバリの目の前にある。トバリは何も考えずにはっきりと答えた。


「私もそうだ」


 そう言ってガビの唇に吸い込まれるように自分の唇を重ねたのだった。


 ガビはその答えをちゃんと聞いていた。聞いていたので、満足そうに口を開き、トバリを驚かせた。


手慣れた様子でトバリを夢中にさせる口づけから大胆にトバリの手を自分の体に導いた。トバリは初めての経験と快感に圧倒された。そして、今まで以上にガビに夢中となった。ガビはそれが楽しそうでもあった


 事が済むとガビがさっさと衣服を整えながら思い出したのは村に残してきた男のことだった。



思わずトバリに話してしまった村の婚約者。だが向こうの親は食いぶちの多い家庭で育った貧しい親のもとで育ったガビを嫌っている。



でも幼なじみのエイマはガビに夢中なのだ。顔が馬のようでガビはエイマの事が好きではなかった。でも兄弟のように育って嫌いではない。気を許していた。一緒に寝たことはない。ガビが口を開くとエイマの目が輝く。このトバリのように。



ああ、この眼差しだわ。久しぶりにエイマの事を思い出すだなんて。ガビは鼻からふっと嫌そうにため息をついた。

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