匪賊と手を組め

 トバリはやっと山道を抜けてアカツキと砂琉璃のいる洞窟へと戻った。




 小さな焚火の側でアカツキと砂瑠璃はトバリを待っていた。そして息を切らして笑いながら現れたトバリを見て、横になっていたアカツキはがばっと起き上がった。異国の衣装を優雅に身に纏った姿は、男であるトバリさえも目を奪われた。アカツキは同じくトバリに笑顔を見せて叫んだ。


「遅いぞ!兎はどうだった!」


 アカツキそう叫んで笑う。アカツキにガビを奪われたくない。トバリは瞬時に思った。


「笑いたければ、笑え。あのな、兎ではない。あの娘の名は『ガビ』だ。もう俺たちは・・・親密だ」


「そうか! 親密か。良かったな」


 アカツキがトバリの心情も分からずに笑う。砂琉璃も小さく笑う。


 トバリがすねたふりをして洞窟にながれる冷たい湧き水に、二度三度手をひっこめつつも手ですくって飲んだ。そして言った。


「いろいろと分かったことがあるんだ」


 そこから、トバリは匪賊の長であるゴスが東新の者で、アーレンが眞の生まれで二人とも元武人だといった。



そして二人が西海に深い恨みを持っている。そしてできたら東新に武人として戻りたいと考えているから、今回の戦に手を貸してくれそうだと。


 

 眞はもともと東新からくっついたり離れたりする歴史がある。眞は地形的には小さくとも物資が豊かで中継ぎの国として栄えている。眞の王女と東新の王が婚姻を結ぶがその逆もまたある。そんな歴史もあるのだった。



アーレンは眞の国に誇りをもっており、東新の王をけなすのこともトバリは聞いていたが、東新の武官になるのは悪くないとも思っている様子だった。


「眞の王が一人、東新の王になるために放たれているのだよ。つまり二つの国はいつか一つとなる」


 というアーレンの酒の上での言葉は、まだ証拠をつかむまではアカツキと砂琉璃には口にすまいとトバリは考えた。アーレンは酔ったままこうも言った。「だから東新のために戦うことは眞に繋がるんだ」と。


「おい、何をぼうっとしいてる」アカツキが笑いながらトバリに言った。


 トバリは顔を上げた。「これからの作戦さ。ガビのことだけ考えている訳じゃないぞ! 」



「お前が説得するのはガビではなく匪賊の長だ。できるのか?」


 アカツキが言う。トバリは笑い、自慢げに二人に話し始めた。


 「ゴスもアーレン達はあの村から絶対的に崇拝されていたよ。村の守り神のようにね。ゴスとアーレンは東新の武人として戻りたいそうだ。ゴスは元々は遠い城門を守っていた東新の兵士だったそうだ。


 ほらな。彼等をうつよりも手を組むのは自分で言うのも何だが、良い考えだったよ。あいつらは話の分かる頭のいい男だ。ただ、もう少し安心材料が欲しい。時間をくれないか? 」


「おい、そこまでの材料があってこれ以上何が必要なんだ? ガビと遊ぶためではないだろうな」


 アカツキの台詞に砂琉璃さるりがとうとう声を出して笑った。トバリは珍しく砂琉璃が笑うので、アカツキに反抗したがったが、やめた。半分は事実なのだから。

 


「そうだな。作戦はうまくいってる。仲間が増えるぞ。興奮する。アーレン達はお前たちともうまくいくだろう。そして、俺はこの戦がいったん落ち着けばめでたくガビと結ばれるのさ。俺はあの子を妻にしたい。あんなにきれいな子を見た事があるか? 明るくて、強気で、とにかく……」


 アカツキが大笑いした。


「初めての恋には気をつけろよ! ああいう屋敷に潜り込むくらい勇気ある娘だ。お前が大金でも積まなければ、あの女は納得いくまい! 」


アカツキは半分冗談、半分本気でそう言った。

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