看病
多英のように、シュウシュウをじっと見てる怪我人が数人いた。多英はシュウシュウについて回り小声でささやいた。
「シュウシュウ様! もう戻りましょう。あとは私が代わります! シュウシュウ様…」
「怪我で体が熱いも者がいますが、寒がってるものには毛布を。体が熱くても震えていたら温めてやりなさい。葉月もですよ」
葉月は眉を八の字にした。
「わかりました…」
「
シュウシュウが振り返り
「死にたくない、死にたくない! 母さん! 」
シュウシュウは目を見開いた。兵士はに二十歳位であろうか。母を呼んでいる。
シュウシュウの顔には驚きと瞬時に悲しみが出た。
本当に宮中でうまくやれるのか。人の痛みや悲しみに敏感で、何事にも手を出さずにはおられず、人を身分関係なく大事にするシュウシュウ様は王宮でなじめるのか。多英は頭を悩ませていた。
「シュウシュウ様はあちらに」
と言い、男に人が亡くなる時につぶやくまじないの言葉をかけてやった。獅子の御守りを出すと男はそれを掴んだ。
「安心しておいきなさい。神様がみてます」
男は泣いた。
「俺には、母親が…」
「大丈夫。あなたを待たせることはない。皆、同じ場所でかならず会う」
男はそれを聞くと、ふと黙ったと同時にこと切れた。
多英は慣れた手つきで男の瞼をとじてやり念仏を唱えた。
そして、長いまつげに涙をためているシュウシュウに向き合った。シュウシュウはずっと見ていたのだった。多英はシュウシュウに言った。
「手をお見せくださいませ」
シュウシュウは多英に言われるがまま、涙を称えた目で両手を差し出した。多英はシュウシュウの手をとり、肘までまくりあげ、隈なく怪我がないかを確認した。
「小さな擦り傷でも、不浄の風がここには蔓延してます。人の血からも、空気からも病が入る。怪我人だけかもしれませんが、ご自身の体にお気をつけてください。葉月もですよ! 」
シュウシュウは
「ありがとう、多英」
形のいい唇から優しい声でシュウシュウが答える。
そして、それを入口で銀の鎧を着た真っ直ぐの黒い髪を肩下までのばした男が眺めていて眉を潜めた。
「とても美しい若い女がいる。しかも身分が高そうだ。あれは誰なんだ?」
男は誰にも聞かなかった。ガンム達が野営地から出ている。ここは怪我人だらけで、誰も事情を詳しく知る者はいないだろう。
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