知恵者トバリ

「ガンム将軍」



 ガンムはシュウシュウが顔をあげるのを待った。やっとのことで顔をあげると、若さ溢れるシュウシュウは、美しさが今にも咲き誇らんばかりで流石のガンムも目を見張った。


 久しぶりにガンムはシュウシュウを見た。なるほど、ジアの言うとおり、昔とは違う。


「あなたはきっと、今のシュウシュウを見ても分からないわ」


 ジアはことあるごとにそんなようなことを言っていた。シュウシュウが王様の第四夫人にになることを告げたときは、ジアはそっと涙をこぼし喜んだが、夜がふけると、ガンムの腕の中で心配そうに囁いた。


「宮中で、あの子は幸せになれますか?」


 ガンムはなにも答えなかった。答えられなかった。三十近く年の離れた老いた王に嫁ぐのだ。だが、王のハルは、男振りも良く何より王に相応しい、決断力のある立派な男だった。ガンムは王を気に入っていたが、結婚はシュウシュウの家の莫大な財産目当てなのは確かだろう。



 だが、シュウシュウにとって、悪い話でもない。王宮は恐ろしいくらい贅沢で、人という人がシュウシュウに傅くだろう。権力というものにきっとこの若い娘は驚くだろう。王の第一夫人には可愛らしい容姿とは裏腹に恐ろしい噂しかなく、王宮にいる女も男も早世しがちだ。だが、ガンムは女達の争いに疎く、戦以外分からないので何も答えられないでいた。


 そんなことを思い出しつつもガンムは目の前のシュウシュウの美しさに感心した。この美しさなら、もしかすると王の寵愛を一心に受けられるかもしれない。正室の地位も空いているが、そこではなく第四婦人となったが不思議だった。


 ガンムは暫くシュウシュウを見て黙っていた。シュウシュウは目を伏せて言った。


「ガンム様、私はまだ王に嫁いでおりません。昔のようにシュウシュウで結構です」



 多英たえいがシュウシュウを咎めるより早く、ガンムが大笑いした。その声の大きさにびっくりしているシュウシュウ達をよそに、笑いがおさまるとガンムは言った。



「中身は昔のままか! 餅の菓子を褒美にジアを守ろうとした、シュウシュウだな」


ガンムはひとしきり笑っていたが、すぐさま頭を下げ、言い直して続けたのだった。



「…いや、あなたはもう妃となるお方。シュウシュウ様なのですよ。さあ、今は、とにかくここで我慢していただきましょう。こちらは忙しく申し訳ないが、無事、送り届けます。また会いましょう」


そして顔をあげた。「ジアに約束しております。私はあなたを必ず守ります」


 ガンムが外へ出ると、砂瑠璃達もすぐさまと後へと続いた。ガンムは足早に馬に向かいながら言った。



「まさか、シュウシュウ様とここで会うとはな。ともかく、たった三人でよくやった。宮中の護衛のなんと弱いことか! もう少し考えにゃならんな。しかし、時が経つのは早いな。さあ、お前達、早く馬を用意しろ!」

 

そして、機嫌よく続けた。



「あれなら、シュウシュウ様は王に愛され、宮中でうまくやれるやもしれん」

 

砂瑠璃はそれを黙って聞いた。


 

 ガンムと三人は、兵を引き連れて崖の方まで行くと、大きな横に広がった穴に沢山の馬と賊が落ちて死んでいた。穴には杭があり、それらは賊の体の至るところを貫いていた。それを見た若いガンムの兵達はどよめいた。そして、奇襲にも何とか対応できたのは罠のお陰だという報告にガンムは大笑いした。


「さすがだな! トバリ。助けに来るまでもない! お前の案で剣を振るうことも少なくなった! 」


「恐れ入ります」


「生き残った賊を探すぞ! 」


 ガンムが叫ぶと、トバリがガンムに耳打ちする。もう、トバリのなかではどう事を運ぶか既に頭にあるのだった。これまでもトバリの策で向かうところ負けなしで、被害が少なかった。ガンムはにやりと笑った。


 ガンムと砂瑠璃さるり、そしてアカツキとトバリとで兵を分けて動いた。そして、待機してる仲間達を見つけて、ガンムが生き残りの敵へと突撃した。





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