ガンムとの再会

 砂琉璃が口を開く前にゲルの外から声がした。


「大変です、崖の方から賊が。苦戦しています。応援を! 」


「こんな時に…ガンム将軍は? 」


 アカツキがいう。トバリがさっと外へ出る。不安げなシュウシュウの眼差しをしっかり捉えた砂瑠璃さるりが落ち着いて言った。


「心配いりません。信頼できる部下を周りに置いていきます。ですが、私かトバリかアカツキの誰かが戻るまで外へは出ないように」


 シュウシュウは砂瑠璃さるりの真っ直ぐな眼をみて頷いた。かすかに震えているのが分かり、砂瑠璃は離れがたく思った。


 砂瑠璃は何かいいかけようとしたが、アカツキが「さあ、我々は行こう」と言ったので、何も言わずに軽く頷いて出ていった。


「何てこと。やはりここに来るべきではなかった! 」


 三人が出ていくか行かないかのうちに、多英たえいが叫ぶ。その言葉に葉月が助けを求めるようにシュウシュウをみる。


「大丈夫よ。私達は大丈夫。砂瑠璃様を信じましょう。私は信じます」


 シュウシュウは葉月の不安が手に取るようにわかった。自分も不安ではあったが、砂瑠璃を信じた。



不安げな葉月を見てシュウシュウは宮中にいたから無理もないと思った。多英たえいが言っていた。宮中は華やかで贅を尽くしているのだと 。




 だから女官にはこんな所が珍しいのだ。シュウシュウは都から離れた山育ちなので、ゲルのこともあまり気にならなかった。山の豪邸で贅沢な暮らしをしてきたが、お転婆であり、木登りするような自由な子供時代を過ごしていたからだ。


 そして多英や葉月は、シュウシュウとは違い、見目のいいアカツキや幼い顔のトバリとはともかく、髪が獅子のようになっていて、愛想のない砂瑠璃さるりを怖がっていた。(多英は別の理由で気に入らないだけであったが)


 葉月からすらと、シュウシュウがなぜあの恐ろしい砂琉璃を信じてるのかがちっともわからなかった。



だが、砂瑠璃がシュウシュウに話す声はとても優しくて、落ち着いている。もしかするといい人かもしれないとも思った。だが、顔からすればアカツキという人の方が何百倍も見目がいいのに、とも思った。


 シュウシュウは葉月から見ると、既に砂瑠璃さるりを信頼しきっているようだった。それは本当にその通りで、シュウシュウは逞しい砂瑠璃に恐怖感より安心感を覚えていた。


 狼狽える二人を眺めながら、シュウシュウは落ち着くようにと声をかけようとすると声がした。


「ガンムです。入ります」


 そこには、赤茶の美しい鎧を身につけた久しぶりに見るガンムであった。後ろにはガンムに続き、砂瑠璃達も戻ってきた。葉月はもちろん、多英たえいはガンムに大いに驚いたが、すぐさまシュウシュウの隣で並んで頭を下げた。


 シュウシュウも、多英たえいに倣い丁寧に頭をゆっくりとさげた。


「話は聞きました」

 

 ガンムが言う。


「無事で何よりでした」

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