八年後の砂琉璃
砂瑠璃は叔父のガンムに遣わされて、シュウシュウ達の元へと馬で向かっていた所だった。砂瑠璃は、仲間のアカツキとトバリと一緒に馬を今にも雪が舞いそうな空の下、枯草の草原を駆け抜けていた。
砂瑠璃は8年の年月が経ち、ますます体格がよくなり、鼻は少し大きめだがすっきりとした鼻梁、美しく澄んだ目、ごわごわした波がかった髪を頭の上で一つに結び、しっかり体躯、荒々しい風貌に、信頼に値する芯の強い、笑顔は少ない物静かな若者に成長していた。
残酷な場面に何度も出くわしても取り乱すことなく、強さに磨きがかかっていた。
アカツキは砂琉璃と同い年、ガンムのように目が細く、波がかった髪を幾つもの紐であみ、肩下まで垂らした若者で涼しい目が女達の心をつかむ二枚目であった。
トバリは直毛の髪をひとつに縛った顎がしっかりしていて背が低い。 性格も笑顔も明るい青年で、どこか幼い顔をしていた。二人とは違い明るく朗らかだが、二人に比べ家柄も武術も劣るのを内心気にする繊細な若者であった。
三人はシュウシュウ達の護衛をし、そのあとまた戦地でもある国境へと戻る。
東新と西海は休戦中とは言われていたが、国境付近には幾つもの山賊が大きくなっており戦は頻繁で動き回る毎日。
西海といつ戦が再開するのかとぴりぴりしていたところの護衛の命令だった。
砂琉璃達は若かった。護衛の命令が面倒だとは思っても、地平を馬で思い切りかけていると、心は次第に明るくなり次第に三人の若者の顔には笑みが浮かんだ。
「まさか我々が第四婦人の護衛とは。だが、たったの三人でいいのだろうか?」
アカツキが広い草原の真ん中で馬をとめて、シュウシュウ達の一行がくるのを待ちながら大声でいう。
「宮中からの護衛もついている。我々はそこへ合流するだけだ。ガンム将軍の命だ」
馬の手綱をひきながら砂琉璃が答える。
「ガンム将軍の!はっ、それはそれは・・・・」
アカツキが言った。
「しかし、第四婦人はかなりの資産家という話。第一婦人の機嫌を損ねなければいいがな。女は大変だ。私は男に生まれてよかった」
幼い顔のトバリが笑顔で言う。
「口を慎め。どんな言葉もどんな風にとらえられるかわからない。王宮で聞かれたら命はないぞ」
「わかっているさ。砂琉璃。俺たち三人の間じゃないか、なあ、トバリ」
アカツキが二人の間を和らげようと言う。アカツキは気が回る男だった。
「しかし、第四婦人の護衛とは我々も出世したな。第四婦人はどんな方か二人は知ってるのか?」
トバリが興味津々だ。トバリは自分の生まれに引け目があるので人一倍出世に拘る。腕が弱いが頭が良い。
「まだ幼い。アザクラ山のトッシの娘だ。それから、叔父上がシュウシュウ様を大事にしておられる。だから、宮中の護衛だけでなく我々にここにくるようにと言ったのだ」
アカツキとトバリが目を見張った。
「ガンム将軍が大事にしてるだと?」
二人は驚いた。やがてアカツキが口を開いた。
「将軍がジア様以外に誰かを守る…宮中で出世欲のないが強さで上り詰めたガンム将軍がまさかそんな。誰かを目をかけるだなんてすごいじゃないか。王には敬意を払ってはおられるが、宰相たちは勿論、王妃様たちであろうと女官も、ガンム様は王以外みな、同じように扱うというのに」
トバリと砂琉璃がその話が事実であるのを知っているので返事もせずに黙った。
ガンムは誰にも媚びない。宮中の重鎮達はそれを良しとせず、ガンムを目の敵にしていたが、ガンム在りきの東新であった。それほど彼は強かった。
「シュウシュウ様が御腰入れなさると聞いて、ガンム将軍は我々を王に護衛を提案されたのだ」
砂琉璃が言う。
「シュウシュウ様というのか。砂瑠璃、お前はお会いしたことが?」
「昔、何回か叔母上の家でお会いした。小さな子供だった。叔母上から甘い菓子をもらって懐いてたそうだ。そして、物盗りから叔母上の命を守ろうとした」
甘い菓子と引き換えに。安い護衛料だったな、と大昔にガンムがジアと話していたのを思い出した。それと同時に利発でおしゃべりな目のくりくりした女の子の顔が浮かんだ。砂琉璃にもよく懐いていた。砂琉璃の顔に珍しく笑みが浮かんだ。
「それはすごい」
「ジア様を守ろうとした、か!それで第四婦人は戦いの神の庇護を手に入れられたのか。ならば我々も間違いは犯せない。さあ、行こう」
アカツキが掛け声をあげ、馬は駆け出した。三人は遠くに見えた集団へあっという間に駆けつけた。
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