母親殺し
ガンムは入り口にて剣をふり、血をはらって馬小屋へとずかずかと入った。砂瑠璃は矢を構えながら小屋の外をぐるりと見渡した。ガンムは外の様子を伺い見ることもしない。
ジアがどこかで殺されてでもしていたらという考えが、ガンムを怯えさせ、そして、怒らせていたので身構えることもなく馬小屋へと歩ませた。目の端で、馬小屋に人がいないかどうかは確認はしていたもののガンムは逆上していた。
馬小屋の中に入り、すぐさま隅に人影がいるのに気付く。しゃがみこんでる。よくわからない。誰か隠れているのか?
ガンムが鋭く睨む。暗い中、小さな人影が動いた。子供であった。
「この者に手を出したら、お前を殺す」
幼い子供の声だった。後ろに人を庇うように立ちはだかっていた。
ガンムは子供と、その後ろを見ると、しゃがみこんで息苦しそうにしているジアを見つけた。
「ジア!」
ガンムは子供に目もくれずジアの元へと近づいた。
「ガンム様…?」
ジアは息苦しそうにしていたが、ガンムに泳いでいた視線を合わせた。そして喘ぎながらもほっとし、泣きはじめた。
「ガンム様…」
シュウシュウはガンムだと気付いて、ぺたんと藁の上に座った。助かったのだ。ガンムがいる。最強の男、ガンムが!
「シュウシュウ様ー!」
「シュウシュウ様!なぜ、こんなところへ…人が死んでます!シュウシュウ様!お怪我は?」
ガンムはずっとジアを抱き締めていて他に目もくれてなかった。シュウシュウは多英に体中を点検され撫で回されていた。シュウシュウはほっとして、ぼそりと話し始めた。
「ジア様に会いにきたの。でもそうしたら家の様子が変で…。それで、縁の下に潜り込んだら血だまりがあって、ジア様に何かあったかと思ったの。そうしたら、誰かが部屋で言ったの。ジアを探せって。だから、ジア様をお守りしようと…」
ガンムは顔をあげた。そして、軽々とジアを抱えたまま立ち上がった。ガンムは血を浴びていて、それがジアの服ついたので、青白いジアはさも死んでるかのようだった。ジアの衣服は上の衣は美しい水色。下は白の絹が足首まである。しぼみかけた朝顔のようにジアの腰から下で咲いている。所々、ガンムの返り血がつき赤黒く染まった。
「いいか、ジアに触れるものがいたら殺せ」
そういって、ガンムは外へ出た。
輿に乗っていた母親のムニはいつの間にか外に立っていた。
「この者たちは何です?物盗りですか?ジアは無事なの?」
着飾ったムニが言う。ガンムはそれを無視し、先ほど裏庭の外の茂みで刺した男の首を掴んでひきずってきた。そして、庭の真ん中へと運んだ。
「誰に雇われた」
ガンムが聞く。胸から血を流している男を見て、ムニは慌てて叫んだ。
「ガンム、なんの話です!そんな男をこんなところに連れてこないで!血まみれだわ!なぜ、殺してしまわないの!気持ち悪い!」
「誰に雇われた!」
息も絶え絶えの男が答える。
「名は聞いてない…。金持ちの年寄りが、ここの若い女主人を物盗りに見せかけて殺せ、と…それだけだ」
ムニは黙っていた。よかった。これなら私だとわかるまい。男が続けた。
「…女はここから…西の方にある谷に住ん…」
ガンムは振り返り様、母親の体を切りつけた。
ムニは首から血を噴き出して一瞬で事切れた。
そして、シュウシュウと多英の元へとガンムが歩いてきた。シュウシュウは口を強く、多英に押さえられていた。シュウシュウは目だけ上へと向けると、敵意のない落ち着いた顔つきとなったガンムが空を仰ぎ見て、言った。
「よいか、物盗りが全てやった。お前達はここへ、来なかった」
多英は《たえい》は頭を下げて、シュウシュウの腕を引っ張って屋敷の外へと急いで出て行った。
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