ムニの思惑

 ガンムは、賊が頻発して出るということでいつものように兵と出ていた。



今回は早く討伐することができた。これからまたはしばらく王宮へ行かなくてはならないので、その前にジアと過ごしてからにしようと思っていた。



東新と西海の領土争いのせいで、国境近くの村がいくつもやられ、恨みをもった元兵士がいろんな所で山賊となっていたのだった。あっさりと討伐は成功したが、今回の相手の弱さは元々武人ではなかったようにガンムは思った。弱かった。それはガンムには辛かった。


「嫌な時代だな」


ガンムは呟きながらふと、母からの使者から、討伐前に文を貰っていた事を思い出した。なので帰りの道中、嫌々ながらも母親の屋敷にも顔を出すことにした。



 ふみには、ムニは自分が間違っていたとあった。ガンムはそれを信用したわけではないので構えていたが、自分の屋敷に戻る道すがら、ついでだと思ったのだ。


 母を訪ねると母の態度ががらりと変わって別人のようであった。思わずガンムは眉をひそめた。


 そんなガンムの様子をいつものように無視して、自分の言いたいことしか言わないムニであったが、嫁のジアををいびり抜いたことを詫びてきたのだった。


 そして、やたらとジアを褒め称え、会って謝りたいとまで言った。


 ガンムは、ムニがジアへ辛く当たるのを一度見ただけで、すぐに家を出た。何よりもジアを大事にしていた。ジアはガンムが困らぬよう、いびられてるのは隠していたがガンムはジアのことにかけては鼻がきいた。あっという間の引っ越しとなった。


 ムニは恐る恐る、息子のご機嫌をとろうとガンムに御馳走を出して労った。そして、ジアに土産だといい、高価な絹や宝石などを用意していたのだった。




 ガンムは、ムニの言葉がうさんくさく感じられなくもなかったが、素晴らしい土産物は男のガンムには思い付かないものばかりなので、ジアを喜ばせられると考えて悪い気はしなかった。疲れてもいたので、料理に腹が膨れる頃には、母親も本心で言ってるのではないかとも思うようになっていった。


 ガンムと違い、饒舌であるムニは喋り続け、ガンムの隊に甥の砂瑠璃さるりを入れるようにと言い、若い少年を部屋へと呼んだ。


 妹アイシャにもそこまで情のないガンムだったが 、戸を開けて入ってきた砂瑠璃を見るなり、ガンムは気に入った。


 年のわりに落ち着いた態度。十五くらいというのに、これからも逞しくなりそうないい体つきをしている。顔は、ガンムの血筋ではないようだ。目鼻立ちがしっかりしている。幼い顔つきだが、これからも体もますます大きくなるであろう。旦那の顔を強く引き継いだのだろうとガンムはアラシャの2番目の夫を思い出そうとした。


 こいつは母親の愛は受けられなかっただろうとガンムは察した。アイシャは男しか愛せない女だ。しかも次から次へと気が多い。


 だが、そんな母親を持ったにしても、ムニと話す砂琉璃の姿や物の言い方は真っ直ぐ育っているように見える。しかも、こちらの問いかけにちゃんと答える。頭も悪くない。何よりガンムを尊敬する眼差しが気に入った。少年は単純にいった。


「叔父上のように、強くなりたいのです。私の望みはそれだけです」


「金や名誉ではないのか?」


 ガンムをが聞く。


「はい。私は、矢をいったり、武芸を学んでいるときが一番気に入っているのです」



 ガンムは、人を裏切ることを、というより世間を何も知らない純粋な砂瑠璃さるりを気に入った。



「母上、こいつを連れていきます」


「そう!良かった!まだ、日も高い。私もお前の屋敷が見たいので連れていってくれないか?」


ガンムはおどろいて黙った。


「困った顔をするな。アイシャもそうだ。私が訪ねてもうんざり顔だ。我が子の情の無さといったらないな!

娘も息子もつまらないものだ。ガンム。心配するな。私はすぐに帰る。土産物を自分で渡してジアに許しを乞えたらそれだけで、それで安心してぐっすり眠れるのだ、な?」


 どうせ、もう、こちらが謝る前にジアは死んだろう。夏場で匂ってるかもしれないな。ムニは上機嫌でガンムに媚び続けた。


 ガンムは、ジアに嫌な思いをさせなければいいが。だが、どうせ母上のことだ。途中の道すがらにこちらにある店で珍しいい宝飾品など見たいのもあるだろう。謝るのは二の次に違いない。(ガンムの山は貿易をする商人が休む山であり、栄えている)


  言うことを聞いてやってもいい。ジアもそれぐらいなら気にしないだろう。むしろ、心優しいジアはムニのことを気にしていたので和解に喜ぶかもしれない。辛い目にあってもガンムの母ということで、ムニを思いやり、家を出るのを反対していたくらいなのだから。だが、ガンムはジアがムニを許しても、ムニの家に戻るつもりはさらさらなかった。



「わかりました。では、砂瑠璃さるり、お前にも私の妻を紹介してやる。美しいぞ。見とれるな。見とれたら甥とはいえ、手をかけねばならないからな」


 ガンムが冗談をいい笑った。砂琉璃は初心うぶであったので反応に困り、そんな砂琉璃を見て、またガンムは笑った。そして三人は、従者をつれて屋敷へと向かったのだった。

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