ムニの攻撃

 シュウシュウがジアの家が「恐ろしい」という意味がわかったのは、それから数ヶ月経った後だった。



 ジアのところへは、しばらくガンムが滞在していてシュウシュウは近寄れなかった。シュウシュウはジアとはもう気軽に話せたが、日に焼けた目付きの鋭いガンムを見かけて以来、シュウシュウはずっとジアの父親だと思っていたがまさかの夫だった。ともかくシュウシュウはガンムが怖かった。


ジアは言った。


「私の大好きな旦那様で、私とは四つしか違わないのよ? ガンム様は恐ろしい噂はあるかもしれないけど、私を傷つけたことも傷つけることもないの。彼ほど優しく愛情深い人を、私は知りません」


 ジアは女の顔で話した。



それ聞いたとき、シュウシュウは、よく知らないガンムに嫉妬した。美しいジアを、シュウシュウは大好きだったが、夫のガンムはつり目で黒髪の短髪で(長髪の多い時代だというのに)浅黒い日焼けしており、いつも無表情にみえた。シュウシュウは怖かった。


 そのガンムが村を出たと耳にしていたので、ジア様に会える! と喜んでいたがシュウシュウは珍しく夏風邪をひいた。


 多英たえいは「鬼の撹乱」といって笑っていたがそれは最初だけで、高熱が下がることなく続いたことで、シュウシュウを心配そうに、つききっきりで看病した。

 

 シュウシュウの母はシュウシュウを生んでしばらくして亡くなった。父親は新たな美しい妻を娶り、父親そっくりの兄だけつれて親達は王宮の近くの街で暮らしていた。シュウシュウは病気がちという名目で多英と田舎に留められた。


 多英は「何がシュウシュウ様が病気がちなものですか」と内心苦々しく思っていたが、多英たえいはシュウシュウを愛していたので、世話が生き甲斐であった。なので結果的には良かった。


 多英はありあまるシュウシュウの財力を使いシュウシュウに礼儀作法から言葉遣い、楽器。シュウシュウの為になることを何でも教えた。


 シュウシュウは昔から家族の誰より多英たえいに懐いており、父と兄ではなく、多英たえいと血の繋がりがあると思っていた。多英の知識を全てを吸収し、新鮮な空気の中すくすくと育っていた。


「このくらいならすぐ治るだろう」と多英たえいは思っていたが、シュウシュウと同時期に似たような夏風邪を発症した子供が二人と大人が三人も立て続けに亡くなった。




シュウシュウの熱が5日続く頃、シュウシュウの父親のもとへやった使いから医者と薬が届られたが、それでも多英は不安だった。下女達にシュウシュウを見守るよう頼むと、自分の部屋で獅子の面に向かって祈りを捧げた。


 六日目、熱が下がりシュウシュウは回復へと向かった。それからまた歩けるようになるまで二日はかかったが、元気になっていった。


「ジア様にうつすといけないから、もっと元気になってから行こう」


 と、シュウシュウは健気にもそう考えた。そして多英たえいが勧める滋養のある料理を嫌々食べた。そして、多英の言うとおりに歩いたり、運動もしていた。


 それから日にちも経ち、シュウシュウは全快していた。



ジア様に会える。シュウシュウは自由時間ができるとそっとまた家を抜け出した。多英たえいや召し使い達は、いつもシュウシュウがいなくなっても、大体の居場所を目星をつけていたので慌てなかった。


 だが、この日、ガンムの母であるムニは、娘のアラシャの協力を得て、ガンムの留守中にジアを物取りに見せかけて殺すように男達に命令していたのだった。そうとは知らずに、病で痩せて軽くなった体でシュウシュウは跳び跳ねながら山を下り、ジアの大きな邸宅へと走っていったのだった。

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