終わりの時【なずみのホラー便 第77弾】
なずみ智子
終わりの時
誰かが付けてきている? まさか、そんなこと……
イブのすらりとした長い脚が震えた。彼女は美しい娘であった。
大丈夫よ。銃の弾はまだ残って……
懐の拳銃を握りしめたイブ。だが、後ろの者との距離は徐々に縮まってくる。
後ろの者の”力強く堅い手”がイブの肩にかかった時、彼女はその者の胸に飛び込んでいた。
「……皆、死んじゃって……この世界には私しかいなくなってしまったんだって……でも、夢じゃない。これは夢じゃないのね」
イブは泣きじゃくりながら男を見上げた。幸運にも自分と同じ年頃の美しい男を。
瞳を潤ませた男も、イブを強く抱きしめた。
荒廃した世界。滅びゆく人類。絶望のなか生き残っていた男と女。
彼女たちこそ新たなるアダムとイブとして、この世界に生命の息吹を…!
だが、イブは懐から拳銃を取り出し、男のこめかみに向かって放った。
零れ続ける涙を、温かな返り血とともにぬぐったイブ。
「こんな世界になって、私はやっと理解できたの。何事にも終わりの時は必ず来る……あなたを愛して、その終わりの時に身を引き裂かれる思いをする、もしくはさせるより、あなたの名前も知らないまま終わらせたかったの。だから許して……」
――fin――
終わりの時【なずみのホラー便 第77弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko
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