俺、転生したの・・・今度は探偵?

いのさん

第1話 俺の両親

 俺は資産家の家に生まれた。地方都市で酒造業をやっていた先代が傷薬主体の製薬業も初め、朝鮮戦争当時の特需も相まって巨額な富を手に入れた。

 俺は生まれた時からいわゆる「お坊ちゃま」で、欲しい物は何でも手に入った。

親父はバリバリ仕事する仕事人間で人に恨みを買うような人ではなかったと思う。母親は、帰国子女のハーフで学生時代はモデルをやっていたというだけあってスタイルが抜群に良く、その上凄い美人だった。人当たりが良くてこの人も恨みを買うような人ではなかった。

 俺が小学校4年生の時に、その二人が惨殺された。

 その日、俺は爺やの運転する車で帰宅した。

 爺やとメードは離れの別宅に住んでいる。

 それで俺は一人で家の中に入るのだ。

 玄関の扉を開けると、何か鉄のような臭いがした。・・・後で知った事だがこれが血の臭いだった。

 嫌な予感がして両親がいつもいるはずの居間へと向かった。

 居間の扉を開けると血の海の中に浮かぶ父親と、無残な姿の母親の姿だった。

 俺は声を張り上げようとするが、喉からは

「ヒュ、ヒュ。」

としか出なかった。・・・余りにも驚愕すると声もでなくなるものだ。

 目が見ひらかれ、見たくは無かったが居間の状況や父親そして母親の姿が目に焼き付いた。

 その時、前世の記憶が蘇った。

 前世と言うよりも、未来の世界から蘇ったのだ。

 俺は前世の記憶を頼りに一度、居間から出ると父親の研究室に向かい、父親が愛用している懐中時計と巻き尺、写真機と懐中電灯と膠で出来たゼラチン紙とセロハンテープと黒色の紙を探し出す。

 父親は当時としてはハイカラな人で朝鮮戦争当時1950年代に出来た一眼レフカメラが製造販売されるやいなや買って持っていたのだ。

 セロハンテープも1948年には製造販売され幾つか持っていた。

 父親の研究室にあった白色の手袋をはめる。ついでに幾つかポケットに入れて、父親の革製の黒色の手袋もポケットの中に入れる。

 俺は父親の黒い大きな旅行鞄にそれらを放り込み父親と母親の寝室に向かう、母親の鏡台の上に目指す物が載っていた。

 化粧道具の刷毛とファンデーションだ。これも鞄にいれて玄関にいく。

 廊下の状況を見る。土足で上がったのか足跡が残っている。

 土足で上がるのだから被疑者の物だ。

 足跡に巻き尺を充てて写真撮影をする。

 足跡は28センチ、その爪先から爪先までの間、歩幅が約81センチほどであった。歩幅から身長を割り出すと180センチを超える大男だ。・・・大男については身近に何人もいる。誰だろう?

 ゼラチンで直接転写して黒い画用紙に転写日時と場所を書いて張り付ける。

 かかと部分の内側がすり減っている。普通はかかとの外側がすり減っている方が多いので重要な手掛かりだ。

 ゼラチン紙に直接転写にしては、靴裏の紋様もしっかりと採れている。写真撮影もしておく。

 無残な玄関の状況や居間の扉の状況を写真撮影する。

 居間の中の状況を写真撮影をする。段々と気持ちが落ち着いて来た。

 居間の中の暖炉の隠し金庫の扉が壊れて開いている。

 母親がその前でしどけない格好で仰向けに倒れている。

 父親は居間の扉付近でうつ伏せで倒れ、頭部には細長いバールのようなもので殴られた跡がある。

 その状況を写真撮影して、父親の頭部の状況を見る。バールそれもくぎ抜き側で一撃が加えられ頭蓋骨が陥没している。

 倒れた場所とうつ伏せに倒れた状況からして、父親は居間の中に招き入れて先を歩くときに頭部を殴られたか?

 土足で上がり込んでいるので客ではない!

 それでは、誰か来たので居間の扉を開けて応対しようとした時に、被疑者がバールを振り上げたので逃げようとして殴られたのだろう。

 バールの幅は3センチ程だ陥没の深さまでは測れない。

 父親の周りの血糊で出来た足跡は床を椅子にあった座布団で拭き取られている。

 次に母親だが犯されて首を絞められていた。

 母親の頭部にもバールでこめかみを殴られた跡があった。気を失ったところで犯されて首を絞められたのだ。

 首の皮膚にも指紋がついているが俺が準備したものでは採取は難しいだろう。

 まだDNA等と言うものが知られてもいない世の中だ膣内のDNA等の採集方法も知らないだろう!

 DNA、遺伝の歴史は科学の教科書で知られる1865年「メンデルの法則」から始まったと言ってもいいだろう。

 1953年にDNAの「二重らせんモデル」が発表された。

 1985年イギリスのアレック博士によってDNAの個人識別が発表されると

 1987年アメリカのフロリダにおける強姦事件でDNA鑑定による初の有罪判決が言い渡されたのだ。

 1950年当時ではDNAはまだ知られていないのだ。

 膣内に残った精液については血液を調べるくらいだ。

 それも内分泌は血液から造られるからと言って必ずしも血液型とは同一ではないのだ。非分泌型と言われる者だ!

 1978年から1990年までの間、52人もの人を殺したソ連の殺人鬼

「アンドレイ・チカチロ」

彼もまた、100万人に一人の特異体質である血液型と体液とが一致しない非分泌型だったのだ。

 この当時はDNAの判定はあったと思われるが血液型が主流で、DNA判定の精度が劣っていたために犯罪を取り逃がしていたのだろう。

 父親や母親の検視は警察に任せるしかない。

 母親と父親の死体を一応写真で撮っておく。

 次に壊された金庫の状況を見る。壊された金庫の状況を写真で撮る。

 金庫の外側に指紋が付いていた。

 被疑者がバールで父親の頭を殴った際に、飛び散った血液がバールを握る指についてその血液により指紋が残ったのだ。

 幸運にも拭き取られていなかった。 

 指紋の横に定規を当てて写真を撮り、今度はセロハンテープで直接転写で採って黒色画用紙の裏側に張り付けた。

 何か所か指紋の採取ができた。

 金庫内の現金と借用書が何枚か無いようだ。父親の研究室の机の中に借用書の控えのノートがあるはずだ。

 俺はこれだけの事をすると父親と母親の衣服の乱れを直して、写真機等が入った鞄を自分の部屋に隠してから、別宅の爺とメイドを呼びに行く。

 その後は警察が入ってくる。

 子供の言うこと等聞くわけもない、したり顔で歩き回り、足跡や指紋までも壊していく。

 証拠でなく供述重視なのだろう。

 あろうことか重要参考人として爺が警察に連れられて行った。

 爺の身長は160センチほどで、足の大きさも25,5センチなのだ。

 鑑識捜査がしっかりとしていれば、犯人で無い事はわかったはずだ。

 2週間程すると爺が述供して犯人にされてしまった。

 酷い拷問のような取り調べだったのだ。

 それに、遠い親戚の叔父さんだとか小母さんだとかが俺の親父の遺産目当てに群がってくる。

 その中でも身長180センチの大男は、俺の父親の二人の弟だ。

 一人は俺の父親の酒造会社の経理担当だ。

 もう一人は大学を卒業後、女の尻を追いかけまわしている東京在住の優男だ。

 優男の方は俺の母親に手を出そうとして、母親に投げられた事がある。

 俺の母親はハーフながら体術の師範なのだ。

 それ以来俺の家には近寄ってこない。

 それに、手を出した女の連れ子が優男の家に住みついているそうだ。

 手を出された女は子供を置いて別の男と何処かへ雲隠れされているそうだ。・・・閉まらない話だ。

 動機と状況から経理担当の叔父さんが怪しい。

 葬式後、初七日に経理担当の叔父さんが飲んでいたコップを手に入れた。

 部屋に戻ってコップの指紋採集をする。

 亡き母親のファンデーションを化粧の刷毛でコップの周りを刷くと指紋が出てきた。その指紋をセロハンテープで採取して黒い画用紙に張り付けた。

 その指紋と金庫に残った指紋を見比べるために拡大鏡を自分の机に取りに行こうと立ち上がった時、目の前に大きな人が立っていた。

 経理担当の叔父さんだ!

 奴は俺の首に向かって手を伸ばしてきた。俺は咄嗟に奴の伸ばした腕を下から手を当てて首から外すと奴の向う脛を思い切り蹴とばした。

 俺も母親の体術の練習相手にされていたのだ、この位はできる。

 それでも大男の奴が覆いかぶさってくるとヤバイ!

 俺は奴の人中を思い切り殴った。奴が目を回してドスンと大きな音とともに腰を落とした。

 俺は、奴に身構える。

 奴は鼻血を出しながら立ち上がり俺に掴み掛ろうとすると、何かに躓いたようにうつ伏せに倒れる。

 奴の後ろに優男の叔父さんが持っていたステッキで足を引っかけたのだ。

 優男の叔父さんは奴の首根っこに膝を落とす。・・・前世でアメリカの警察官が黒人を膝で押さえて殺したヤバイ業だ!

 騒ぎを聞きつけて親類を名乗る連中が集まってきた。

 その後ろから爺が犯人だったと告げるために、殺人現場を我が物顔で歩き回り現場を壊した刑事と、警察本部の本部長だと名乗っていた優男の叔父さんの友人が現れた。

 俺は黙って奴の靴を持ってこさせて、鞄の中の足跡と合わせて見せる。

 そして、奴の指紋と金庫についていた血液の指紋を合わせて見せる。

 二つの物的証拠が見せられると、いかな頭の固い刑事でも真実が見えてくる。

 俺は金庫の中に入っていた物で経理担当の叔父の借用書が無い事を父親の残された手帳を見せながら刑事に話す。

 刑事は赤くなった青くなったりしている。

 また、父親の日記帳から経理担当の叔父が横領を繰り返していることも綴られていた。

 優男の叔父さんの友人の警察本部長が刑事を解任して、爺が戻って来た。

 どうやら、経理担当の叔父が横領した金で女を囲ったり、ギャンブルで失った金を取り返そうと、騙されて投資をしたり、高額なギャンブルをしていたおかげで、俺の父親の会社は赤字に転落しており、父親の死と共に会社は倒産することになったのだった。

 俺は住んでいた家や酒造業、製薬の会社などの工場が差し押さえられた。

 俺は、俺名義の郵便貯金通帳と父親の残した懐中時計やカメラが入った鞄一つが残されたのだ。

 親戚を名乗っていた人々はその事実を知ると雲散霧消してしまった。

 俺が差し押さえられた屋敷の玄関の扉を開ける。

 玄関の前には爺とメイドが並んで頭を下げていた。

 俺は県の孤児の施設に行く事になっているのだ。

 屋敷の外の門扉を開けて小学校4年までの間住んでいた自宅を感慨深けに見て振り返ると目の間に痩せた大男が立っていた。

 東京在住の優男の叔父さんだった。

 優男の叔父さんが俺に手を差し伸べたので、俺は思わず優男の叔父さんの手を取ってしまった。

 俺が連れられて行ったのは東京の下町の長屋の一角だった。

 そこで、優男の連れ子と出会ったのだ。

 黒い制服を着た俺の一つ下の物凄い美少年だった。・・・女の子にしたいような美少年だった⁉

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