第8話

「これで依頼は達成なのか?」


「はい、達成目標数の魔石は確かに受け取りましたので、これで依頼は達成となります。こちらが報酬です」


 地上に戻ってきたので、レイにも言ったように依頼達成の報告をギルドにしにきた。驚くほどあっさりと手続きが終わる。


 そうして渡された小袋の中には、銀貨1枚、銅貨数枚が入っていた。まだ貨幣の価値がよくわかっていない俺としては、儲かっているかもわからない。


「……というか、1日でこの依頼を達成ですか。どこか他の冒険者ギルドで依頼とかやってたんですか?」


 登録の時とは違う、これまたかなりの美少女である受付嬢が興味深そうに俺にそうたずねる。緑の髪を揺らしながら、元気な笑顔を浮かべている。その辺の男なら、この笑顔に軽く引っかかり、色々喋ってあげたくなるものだが、下手な答え方をして墓穴を掘るのも嫌なので、ここは誤魔化しておくとしよう。


「どうだろうな。ご想像にお任せするとしよう」


「えー、なんですかそれ?」


 不満そうにそういう受付嬢。そんな彼女に迫る影。


「こらっ!」


「いたぁっ!?」


「メリア、あなたねぇ、冒険者様のプライベートは探っちゃダメって何回言ったらわかるの!?」


「いーじゃない、減るものじゃないし! カリナのケーチ!」


「ケチ!?」


 依頼達成の受付嬢、メリア嬢の頭を叩いたのは、冒険者登録をしてくれた、カリナ嬢だ。


「すいません、ゼロ様。この子はまだ新人のようなものでして……」


「構わん。最初のうちは誰でもミスをするものだ。それに、これほど多くの人と関わり、疲れたりもするだろう。俺なんぞで良ければ、気軽に聞いても構わない。まあ、答える気は無いがな」


「そんな、そういうわけには……」


「わーお! 太っ腹ぁ……? て、結局答えてないじゃん! 聞きたーい!」


「そこは諦めろ。では、また来る」


 メリア嬢は、まだ不満そうに騒いでいたが、カリナ嬢が連行していったな。


「なんだ、優しいじゃないか」


「ふん、無駄に関係を悪化させる必要がないだけだ」


「そうか? まあそういうことにしておこう」


 ギルドを出たところで待っていたレイと合流する。ちなみに、セラは大量の魔石を換金しに行った。


「じゃあ行くぞ」


「そういえば聞いていなかったが、レイ、お前のクランの名前は?」


「あぁ、名前か。確か、墓の証券? みたいな名前だったぞ」


「なんだ、それは? どんな考えでそんなふざけた名前になったんだ?」


「知らん。私は臨時で加入しているだけだし、大して興味もない」


「なんだそれは、適当な奴め」


「よく言われるな」


 分からないのなら仕方がない。とりあえず行ってみれば、わかる。そう思い、俺はレイとともに、彼女の加入しているクランへと向かう。



#####



 まったく、少しそうではないかと考えてはいたが。


「赤の猟犬だったな」


「あぁ、そんな名前だったな、そういえば」


 俺とレイはすぐにクランハウスに着いた。入り口に、赤の猟犬、と大きな字で書かれた看板が飾ってある。


「じゃあ入れ。私の部屋があるからそこまで行くぞ」


「あぁ、わかった」


 そう言って一歩中に踏み入る。

 

「……あまり、人はいないんだな」


「この時間帯はな。夕方ごろは、まだ狩りを続けている奴がほとんどで、あとその他諸々が少数いて、あまり人がいないんだ。なんせ、このクランのやつはみんなバトルジャンキーだしな」


 バトルジャンキーか。厄介なタイプだな。話を聞かず、戦いで会話するタイプであり、あまり俺とは合わないタイプだ。


「帰って来ると色々面倒だ。さっさと話をしよう」


「そうだな」


 レイが奥へと歩き出したので、俺はその後についていく。


「……ここだ。ほら、入れ」


「邪魔するぞ」


 そして建物の1番奥の部屋まで来たところでレイが入室を促して来たので、大人しく部屋に入る。


「……無機質な部屋だな」


「どうせ仮の部屋だしな。わざわざ彩る必要もないさ」


 レイの部屋は、殆ど、いやまったくと言えるレベルでいじられていない、およそ女性の部屋とは思えない部屋だった。


「こら、あまり人の部屋をジロジロ見るな」


「いや、ジロジロ見るほどのものもないんだが……」


「それでもだ」


 よくわからんな。まあそんなことはどうでもいい。


「では、常識の範疇で構わない、交渉通り、色々と教えてもらおうか」


「あぁ、そうだな。お前の知りたい、この世界の常識を教えてやるとも」


 その言葉と、レイの笑みから、彼女が俺の正体をおおよそ掴んでいることを察する。


「どれくらい気づいているんだ?」


「別にそんな大したことまではわからないさ。精々、記憶喪失、あるいは異世界人とかその辺じゃないのか、とは思っているけれどな」


「……異世界人というのは、よくいるのか?」


「まあ多少は珍しいな。普通なら数十年に1人くらいだが……」


「なら今回のはイレギュラーだな。俺含め、40人が転移して来ている」


「ほう、それは大人数だな」


 そう驚いたような仕草をするレイだが、声がまったく驚いていない。大根役者にもほどがあるだろう。


「この国の王に召喚されたようでな。目的は、戦争だ」


「……ほう? それはまた妙だな。この国に逆らえるような国などないと思うが?」


「いや、魔王を倒すためだそうだ」


「……ほーう?」


 レイがニヤニヤと笑いながら首をかしげる。


「……何がおかしい?」


「いや、無知の人間だからこそだろうな。最初にそう信じ込まされてしまえば、仕方ないとは思うが」


「……ということは、魔王は」


「あぁ、いないよそんな存在。いや、厳密には魔王という種族はいるが、お前たちが教えられたような存在ではないさ」


 なるほど、そう来たか。


 この世界に来たばかりの俺たちは当たり前のことを知らないからな。外付けの嘘っぱちな情報でも、信頼してしまうことがある。特にみんなのあの状況から鑑みると、魔法の作用もあっただろうしな。


「では、魔王について教えてくれ」


「いいとも。魔王というのは、魔人という種族の国の長のことさ。私たち人間に比べて彼らは魔力の扱いに長けている。その分、あまり近接戦闘は好まないような気がするな。まあ、例外など当然いるのだけどな」


「つまり、人間との違いは得意とする戦闘スタイルの違いだけか?」


「まあ加えて肌の色も違うな。彼らは青みがかった肌を持っている」


「しかし、それだけか?」


「それだけだ」


 はっ、ほとんど人間みたいなものじゃないか。肌の色が違うことなんて、大したことではない。戦闘スタイルなんてものは千差万別だ。それこそ、違って当たり前のものだ。


 こうなると、王の狙いは俺の想像していたものではないな。自国の防衛に俺たちを使い潰すつもりかと思っていたが、そもそも防衛の必要はないようだしな……。となると、侵略か?


「ここの王について何か知らないか?」


「詳しくは知らんよ。ただ、すべての国の、すべての人間が幸せになれることを願う、みたいな、平和ボケした国王だとは聞いている」


「とても、そうは見えなかったがな……。」


 少なくとも平和ボケはしていなかったはずだ。……国王の考えが読めなくなって来たが、やることは大して変わらん。俺たちに対する行動から、俺たちが本来望まないことをやらせるつもりなのは類推できる。それならば、やはりあの国王は止める必要がある。


「……わかった、では他にも色々聞きたいことがある」


「いいとも、なんでも聞きたまえよ、ゼロ」


 その後も俺はレイから数々の情報を得るため、ひたすら彼女を質問攻めするのだった。

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