第6話

「グギャァッ!」


「はっ、効かんな。では、お返しだ!」


 襲って来たゴブリン4体のうち、残った最後の1匹の攻撃を受けたが、絶対守護領域はいまだ健在のため、それが俺に届くことはない。


 俺はそのまま、攻撃後の隙だらけのゴブリンに、蹴りを放ち、絶命させる。


「よし、これで30体目か?」


 絶対守護領域の効果を確認したことで、俺の狩りは、すこぶる順調だった。襲ってくる魔物たちを片っ端から叩き潰すことで、すでにゴブリンは30体ほど、スケルトンは10体ほど、キャタピラは20体ほど倒している。


 しかし、ゴブリンもキャタピラも絶対守護領域があるから楽に倒せているが、なければ案外苦戦しそうだ。


 ゴブリンは集団で行動するという意味をそれなりには理解しているようで、一斉に襲いかかってくるような愚策を取ってこなかった。遠距離から弓を放つゴブリンに、盾役のゴブリンなど、陳腐なものではあったが、知性ある行動をしていた。一人で戦うには厄介な魔物だ。


 加えて、キャタピラの放つ糸はより厄介だ。俺は絶対守護領域のおかげで動きを阻害されなかったが、あれに絡めとられてしまうと、かなり動きが阻害される。キャタピラ自身には攻撃手段が少ないためやられることもそうないだろうが、もし糸に絡めとられた状態で他の魔物に会えば、滅多打ちにされて死ぬのがオチだろうな。


 全く、危険極まりないなこの世界は。守りに特化したスキルで本当に良かったものだ。


「さて、確か最低各魔物10体だったはずだからな。一応目標は達成しているわけだが……」


 まだ迷宮に潜ってから1時間半しか経っていない。もう少し狩っていっても、問題はないだろう。


 迷宮前のあの少女を心配する気持ちももちろんあるが、俺はまだ弱い。この状態ではあの少女を例え雇ったとしても、守りきれず死なせてしまうのがオチだろう。


 だが、一応、魔物を倒したことでレベルも上がってはいる。ステータス確認の紙がないため、具体的にはどんなステータスなのかわからないが、レベルが上がった瞬間は、直感でわかる。直感によると、今の俺のレベルは3らしく、この狩場でもう少しレベルも上げれるらしい。


 今はこのスキルに従って、もう少し狩りを続けよう。



#####



 ……少しやりすぎたな。これでは無駄に目立ってしまう。


 あの後、俺は3時間ほどかけて、計200体ほどの魔物を倒した。レベルも2つ上がり、既に5だ。


 だが、これはやりすぎだ。確かに多くの魔物を倒せばそれだけ金も入り、レベルも上がるとはいえ、初めての依頼でこんな馬鹿げた成果を残して仕舞えば、きっと目立つ。それで素性でも調べられて仕舞えばロクなことにはならん。


 とはいえ魔石なんぞ持ち続けていても困るだけだ。今のところ俺はこれの売る以外での使い道を知らん。


 困ったものだな……。


 そう思いながら、迷宮の途中で立ち止まっていた俺だったが、この後すぐに考えを止めざるを得なくなる。

 

 ドドド、と地鳴りのような音が聞こえる。何か巨大なものが近づいてきているのか?


 音のする方向を見れば、おそらく同業者、つまり冒険者であろう装いをした存在が2人、こちらに向かって逃げてきている。


 両方とも女性で、片方は赤髪で、ショートヘアだ。整った顔立ちを持ち、気が強そうだ。あと、巨乳だ。


 そしてもう片方は、青髪のロングヘア。こちらも随分と整った顔をしているが、穏やかな女に見える。胸はない。


 その後ろには……、あれは、いわゆるミノタウロスか? 巨大な戦斧を携え、その2人を追いかける全長、約4メートルほどの魔物がいた。


「そこのあなた、早く逃げて! こいつは強すぎる!」


 先頭を走る女性がそう声をかけてくるが、馬鹿馬鹿しいな。連れてきたのは貴様らだろうに、さも俺を心配するような言葉をかけるとは。


 本心から言っているだろうからこそ、馬鹿げている。自分のやったことを理解できていないのだろうな。


 だが、そんなことは言わない。こいつらは利用できる。ここで反感を買えば、俺は下手に目立つだろうしな。

 

 それに……、まだ、困った人を見捨てるほど、俺の性根は反転してはいないようだしな。


「はっ! 余計なお世話だな。この程度のやつにこの俺が負けるものか! お前らはそこで見ていろ!」


 そう言い、俺は2人とすれ違う。そのまま、ミノタウロスと向かい合う。


 これはややリスキーな賭けだ。絶対守護領域が、この魔物の攻撃を止められるかどうかはわからない。直感も恐らく、止められるという判断だ。絶対ではない。


 だが、こんなやつ相手に怯え、逃げるわけにはいかん。俺の立ち向かう場所は、もっとふざけた場所だろうからな。


 故に、お前には俺の足場となってもらうぞ、ミノタウロス!


「来いっ!」


「ヴォォォォォ!」


 絶対守護領域を展開し、ミノタウロスの攻撃を受ける。受けた瞬間、わずかに俺に衝撃が届く。防ぎ切れはしなかったようだが、この程度なら問題ない!


「今度は俺の番だ!」


 地面を踏みしめ、俺は跳ぶ。ミノタウロスの頭、より具体的に言えば顎を狙う。


 いくら魔物とは言えど、脳というパーツは頭にあるはずだ。ならば人間と同じように、脳震盪という現象を起こせるはずだ。

 

 戦斧を振った直後でわずかに硬直していたミノタウロスは俺の打撃を避けることかなわず、もろに顎へと喰らった。


 するとやはり半分は予想通りと言うべきか、ミノタウロスは確かによろめいた。おそらく脳震盪を起こしたのだろう。だが、すぐに態勢を立て直してきた。


 ちっ、火力不足か。本来このスキルは攻撃向けとは言えないからな、この巨体に存在する脳を揺らすには、俺の筋力自体が足りてないのだろう。


 そう心の中で愚痴る俺に、ミノタウロスの戦斧が迫る。ふん、思わぬ一撃をもらって、頭に血でも上ったか。


 しかし、次に取る行動はどうするか。火力が足りない、と言うわけだが今の俺は火力を上げるための武器を持っていない。


 そう考えたところで、気づく。はっ、そうか。別に俺が武器を持っていなくても、問題はないな。


 ミノタウロスの戦斧を絶対守護領域に守られた腕で横にいなす。腕にわずかな衝撃が届くが、大したことはない。そのままいなし切り、地面を叩いた戦斧の柄を掴み、体を捻じ上げ、ミノタウロスの手にかかと落としをかます。


 流石に、その痛みの中戦斧を持ち続けることはできないようで、ミノタウロスは自分の武器を手放す。その瞬間を逃さず、ミノタウロスが手を離した瞬間、俺は体の勢いのまま、自分の2倍ほどある戦斧を振り上げる。


 そしてそのまま、ミノタウロスの脳天から、股まで一気に振り抜くっ!


「グォォォォォォ……ォォォ?」


 真っ二つにされたミノタウロスは、叫び声をあげ、そして自分に起きたことを理解できないまま、倒れた。


「はっ、貴様の敗因は、自分の利点をあっさりと手放したことにある。来世では、気をつけるんだな」


 倒れたミノタウロスの死骸と戦斧が消えて行く最中に、今まで拾ってきたものよりふた回りほど大きい魔石を見つけた。それを拾い、俺は何が起きたのかよくわかっていなさそうな2人組に振り返る。


「1つ、交渉をしないか?」

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