6月の涙雨

せいや

机上のカレンダーを過去に遡っていた。

目に映ったものは、6月の文字。

雨の音だけが、その淀んだ空気に馴染んでいた。


あの男の顔が頭に浮かんでいた。

それも何年か前の6月だった。


雨の中、私は彼の頬を叩いた。

彼はその顔を暫く俯かせた後、尚も私にあの眼で何かを訴えかけてくるのだ。


その眼とは、今思えば無垢であり、雫のように光っていた。

ただその時の私は、そのような瞳にすら苛立ちを覚えた。

そして憎悪の眼光で突き放し、その勢いのまま帰路についた。


窓を隔てて紫陽花が美しく咲いていた。

その美しさに向ける私の眼差しとのギャップに気が付いた。

雨に向けていた刃のような感情とのギャップだ。それはあまりにかけ離れていた。


私のその刃は、あの時も。

私の目に映らない彼の心を抉っていたのだ。


私は窓を伝う雨音さながら、声を上げて泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

6月の涙雨 せいや @mc-mant-sas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ