炎系統の超能力者




「それでは紹介する。マッチボクスとホットライターだ」


「……」


「よろしくね〜」


もちろんよく存じ上げております。ええ。

『バーニング』の着火兄弟であるマッチボクスとホットライターは性格が全然違う事で有名な兄弟だ。


兄のマッチボクスは寡黙だが、その大きな身体で瞬間的にファイアマンにも負けない火力を出して戦う。

ホットライターは自身の火力はそこそこだが、背負っているオイルタンクを使い、味方の火力を上昇させる能力を持つ、ノッポなのんびりさんだ。

2人とも人気キャラで、よく兄派弟派で議論がされるほどだ。

実物は思っていたより大きいな。特にマッチボクスは天井に頭がつきそうだ。


「タケシです。よろしくお願いします」


ギルドの大広間で挨拶を済ませると、これまたバーニングに出てくる炎の料理人こと、シェフドンパッチが、少し焦げたトーストと完全に火の通った目玉焼き、熱々のコーヒーを持ってきた。


「どうぞ」


焦げた部分を食べると癌にならないか心配になるが、まあ味は悪くない。各々が朝食をとっている中、ファイアマンが複数の新聞を同時に読みながら唸り声を上げていた。


「今回の黄金の目の活躍はどこの新聞社も大きく取り上げているんだな…」


『ゴールドアイズ』のことか。ゴールドマンをリーダーとする『黄金の目』と呼ばれるそのギルドは、この世界では第一線を走る活躍をしているそうだ。王都を拠点としているため、悪の影響も大きい。最近はダンジョンからモンスターが溢れ出てきて街を襲うようになり、そこそこ強いモンスターが王都を狙って出てくるらしい。


漫画の『ヒーローズダンジョン』では、ダンジョンにモンスターがいて、最下層にはヒーロー嫌いな魔王が君臨する。その魔王がダンジョン内でモンスターを産み出しては、探索に来るヒーロー達を迎え撃つという設定だったはずだ。

街にモンスターが溢れ出てくるという話は無かったはずだ。イマイチこの世界の仕組みが分からないな。


「ウチらもゆっくりしてられないね〜」


「おい、お前がそれを言うな!ホットライターが1番のろまだわ!」


朝からバッチリメイクをきめているメディは、相変わらず同業者への当たりが強い。



朝食をとり終えると、ファイアマン、マッチボクス、俺の3人でトレーニングルームへ向かった。


「今日はタケシの肩慣らしだ。マッチボクス、あまり火力を上げるなよ」


ファイアマンもマッチボクスも、ヒーロースーツを着用している。

ファイアマンは赤を基調とし銀色のラインが所々に入っており、大きな赤いマントを羽織っている。

マッチボクスはメタリックな黄と黒縁の重厚な鎧に身を包んでいる。


「……」


マッチボクスは無言で準備体操を済ませた後、ようやく声を発した。


「マッチ1本…カジノモト」


暖かい空気がじんわり広がる。おおお!本物だ!マッチボクスの技は着火するマッチの本数で火力が決まる。バーニングの最新話では7本目の能力が解放されていたはずだ。

って、え!やっぱり戦うのか?無理無理無理無理無理。相手は燃えてるぜ?焦げるわ!


「……」


全身が燃えているマッチボクスは、またも無言で大きく振りかぶりながらヘビー級のパンチを繰り出してきた。


「え?まじ無理無理無理!」


「……」


とっさに左手でガードをするが、相手は炎に包まれているのだ。


「うわぁぁぁあ!熱い熱い!!あつ…?」


熱く…ない?


「む?…ほう、そうきたか!」


ファイアマンは目を見開いていた。

それもそのはず、炎のパンチをガードしている俺の左手が、マッチボクスと同じく燃えているのだ。


驚きながらマッチボクスのパンチを受け止め、後ろに身体を引くと、自分の全身から炎が出ている事に気が付いた。


「これは…?」


「タケシも炎系統の超能力者だったか!これはうちのオーナーも喜ぶぞ!」


そんなまさか、目の前の現実に驚きを隠せずにいると、マッチボクスは自身の炎を引っ込めた。


「……」


またしても無言だが、明らかに動揺している様子が見て取れる。


「燃えてる?なんで!?」


「きっと、身体が反応したのだろう。消火と、念じてみろ」


ファイアマンに言われるまま念じてみると、身体から出ている炎は消えた。

まさか、炎の超能力者になってるなんて、俺、スーパーヒーローじゃん!


「その様子だと、記憶が戻った訳ではなさそうだな」


「自分でもどうなってるのか、全然理解できてません」


「……」


「とりあえず、一旦終わりにしよう。今のタケシの格好はさすがに私も恥ずかしい」


全身から炎を出したせいか、俺のくたくたのスーツは灰と化し、ほぼ裸の状態となっていた。


「なっ!何か、羽織るものありませんか…」



ファイアマンのマントを借り、宿泊用客室へ駆け込んだ。とりあえずクローゼットにあった麻でできた寝巻きのような服を着てマントを返すと、ファイアマンは嬉しそうにしている。


「細かい能力は追々確認するとして、炎系統とはな。タケシはうちのギルドに加入するしかないだろう。オーナーの許可が出れば、腕の立つ服飾員にヒーロースーツを作らせよう。うちのギルドで作る耐火性スーツならどんなに火力を上げても絶対に燃えない。どんなデザインがいい?やはりマントは欲しいか?赤色がいいよな?私と同じだと嫌か?」


目を輝かせながら矢継ぎ早に質問してくるが、あまり入ってこない。驚きすぎて、先程の事が現実だとまだ理解できていない。夢に見たヒーローになれるのか…?そもそも見ず知らずのこの街を守る事になるのだろうか、もう何がなんだかよく分からないが…


「あなた、身体から炎が出るからって何なの?どうせ火力も全然出てないんでしょ?ヒーローとしてはまだまだよ。調子に乗らないで頂戴」


いつの間にかメディもいた。なんだか嫉妬してるようだ。

確かにメディは、『バーニング』の中でも唯一炎を出す事ができないヒーローだった。彼女は血液を使った回復系統の超能力者である。


「ありがとう、注意喚起として受け止めておきます」


「なによ!つまらない男ね!」


あれ、怒らせてしまった。去って行くメディを気にせずファイアマンが話を続けた。


「それで、本来ならこの後ダンジョンへ行く予定だったが、すまない、私はオーナーのところへ向かうとする。タケシを我がギルドに推薦しようと思うが…いいよな?」


正直、この世界で目覚めてから理解できている事は何一つない。何のためにこの世界にいるのかも分からない。元の世界に戻りたい。悪くない日常だったぞ!

だが、ヒーロー証を持っており、全身が発火した。細かい能力の種類は分からないが、自分も超能力者だという事を実体験し、今提案されているのは、夢に見たヒーローになれるという事である。ならば。


「はい、是非お願いします」


「ふふ、楽しくなりそうだね〜」


背負ったオイルタンクを輝かせながら、ホットライターがニヤリとした。



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