ヒーローレベル1lv.



口調や態度は悪くも根は親切な天使のメディにより、この世界のことを大まかに教えてもらった。

話から察するところ、ここは『ヒーローズダンジョン』の世界をベースに、住んでいるのはヒーローズマガジンに連載されている作品の者たちのようだ。


ヒーローが街の外にあるダンジョンでPTを組みレベル上げをするというのは『ヒーローズダンジョン』の設定そのものだ。一つの街に一つのギルドがあり、『燃え盛る炎』もギルドの名前のようだ。


俺が知っている事と違う点はいくつかある。

『バーニング』は『燃え盛る炎』、『ゴールドアイズ』は『黄金の目』のように、何故か作品名は横文字から日本名のように変えられており、それぞれオーナーのいるギルドとなっている。

そもそも超能力を持つ者が王都にあるヒーロー教会で登録をし、ヒーロー証を貰う事で正式にヒーローになる。オーナーから勧誘を受けてギルドに加入すれば、その街を中心に守ることを使命として活動ができるようだ。

また、ヒーローはダンジョンでレベル上げをする事で超能力を開花させていく。ヒーローレベルはダンジョン内でしか上がらない仕組みだ。


どうやら自分は、ダンジョン内で倒れていた所を『燃え盛る炎』のファイヤマン率いるPTに発見され、ギルドハウスの宿泊用客室でメディにより看病されていたそうだ。


ちなみに街の外のダンジョンはこの世界に一つしかなく、その出入口は複数あるためダンジョンは全ての街とつながっている事になる。ダンジョン内で人に出会ってもどこの街から来たのかわからない状態となるのだ。


とりあえず夜更けも近いことからそのままギルドに泊まらせてもらえることになったが、明日からの事を考えねばならない。

メディにはダンジョンでボコボコにされて記憶喪失になった可哀想な初心者野良ヒーローという認識を持たれ、記憶を戻すまでしばらくはギルドでお世話してもらえる事になったのだが…果たして元の世界に戻る方法はあるのか。。


「タケシ、まだ起きてるか?」


扉が開くとそこには『燃え盛る炎』のリーダーであるファイアマンがいた。うわ、、本物かあ。


人気作品『バーニング』のメインヒーローであるファイアマンは名前通り全身発火人間だ。全身赤みのかかった皮膚、頭部は常に燃えており髪の毛があるのか無いのか分からない。そこも忠実に再現されている。


「あーはい。今夜は中々眠れそうにないです。」


「ずっと寝ていたからだろう。お前がヒーローだと聞いた時は驚いた。その、なんだ…格好がな」


どうやらくたくたのスーツ姿の俺は、発見当初ヒーローではなくどこかのギルドの事務員だと思われていたらしい。


ダンジョン内はヒーローでなくとも入れる。そのため、ちょっとした散策やダンジョンの調査なるもののために、街の住民やギルドの事務員も頻繁に出入りしているらしい。

いや、というか待て待て、俺はヒーローじゃないぞ?


「ヒーロー証には能力が書かれない分、名前や見た目でその能力が分かるようにするもんだと思ってたからな。どうやらタケシはそうではないみたいだ」


そうだ、スマホと同じサイズのヒーロー証を持っていたのだった。

あれからマジックバックと呼ばれた通勤カバンの使い方を教わり中を見る事ができたが、いくら探してもスマホは見つからなかった。スマホがヒーロー証に変換されてしまったみたいだ。


「はは、そうなんですかね。ははは」


愛想笑いしかできない。


「ところで明日、能力を見せてもらえないか?ここのギルドのトレーニングルームの設備は充実しているぞ」


「のっ…能力ですか。いやあ、それも思い出せなくて…」


思い出せない、というか、俺に超能力は無い。ヒーローに憧れを持った平凡な人間だ。


「ヒーロー証があるなら、お前も超能力者だろう。私達と少し立ち合えば本能が身体を動かしてくれるさ。ちなみにヒーローレベルを聞いてもいいか?」


そう聞かれて自分のヒーロー証を見つめると、1lv.と書かれていた。まじか。弱くね?


「あの、、恥ずかしながら1lv.です」


「そうか。。メディから初心者だとは聞いていたが、、1lv.だったか。もしかして初めてのダンジョンだったか?」


驚きと哀れみが混じったような表情のファイアマンは、そのあともダンジョンの階層やモンスター、PTを組む際のジョブなど、複雑な仕組みについて優しく丁寧に説明をしてくれた。よほどダンジョンが好きなのだろうか。話しているうちに楽しそうな顔になっている。

いや、うん。申し訳ないが全然理解が追いつかない。ぼけっとした顔をしていると気を遣ったのか、ファイアマンが話を切り上げた。


「明日はうちのギルド員は休みの日だ。トレーニングルームで少し立ち合いをして、散策がてらダンジョンへ行こう。なに、深い階層へは行かないから安心してくれ。住民も気軽に行けるような、景色のいいところで、また話を聞かせて欲しい。何か思い出すかもしれないからな」


「はあ。。あ、いえ、はい、よろしくお願いします」


立ち合いってなんだ、戦うのか?能力なんて使えないぞ?という不安と記憶喪失なんてしていない事への申し訳なさを抱えながら、部屋を出ていくファイアマンをじっと眺めていた。見た目は若いが、貫禄のある喋り方から随分年上だなと感じた。

ひとまず、ここの人は皆親切だ。そう安心すると、急にまぶたが重くなっていった。



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