理不尽にも怒られた
目が覚めると、レトロな雰囲気の照明と木の天井があった。
何してたんだっけ。確か、酔っ払いの学生が駅のホームから落ちて、助けようと非常ボタンを押して…
「んん…あぁ」
声にならない声を出すと、人の近づく音が聞こえた。
「目が覚めましたね」
赤と橙色のナース服、ナースキャップから溢れ出るソバージュ、スレンダーで大きな目が特徴の、メディがいた。
「ちゃんと意識はありますか?大変だったのですね」
いや、なんだ?コスプレか?『バーニング』にでてくるヒーローのメディじゃないか。再現度100%だな、おい。
「ああ、ありがとう…ございます」
とりあえずお礼を言いながらスマホを探した。
右のポケットに…あった、ん、薄い気がするぞ…?
「え!まさか!あなたヒーロー!?」
急に大きな声を出したメディは、俺の右手にあるスマホだと思って取り出した四角いカードを見つめている。
ヒーロー証…??
スマホだと思って取り出したカードには、そう書かれていた。
「あーあ、助けるんじゃなかった。雑魚は野垂れ死んでればいいのよ。というか、あなたどこの所属よ??」
ヒーロー証には、所属という項目があるが何も書かれていなかった。
「珍しいわね、無所属?フン、まあ初心者ね。せいぜいいいオーナーが見つかるといいわね。用が済んだらさっさと出ていって頂戴」
『バーニング』のメディはとても優しい天使のような性格だが、ヒーローに対しては超毒舌で態度も悪い悪魔のようになる。そのギャップがファンには堪らないらしい。
ここまでしっかり再現しているとはこの人もよほどこの作品が好きなんだろうか。
いや、それよりもこのカードはなんだ?それと俺のスマホはどこへ??
「『バーニング』のメディですよね、再現度高いですね。あの…俺のスマホ知りませんか?」
「バーニング?私の所属は『燃え盛る炎』よ。私の名前を知ってるならモグリでは無いようね」
なんだそれ?『燃え盛る炎』ってなんだ?『バーニング』を言い換えたのか…?コスプレサークルか何かか?ちょっとダサくなってないか。。
「スマホ?訳の分からない事言って…あなたの持ち物はその机の上のものだけよ。それこそ訳の分からないものばかりだわ」
看護婦として相応しいとは思えないほど伸びた爪と赤いネイルの指先には、通勤カバン、傘、水の入ったペットボトルが整理されて置いてあった。
「なっ…」
通勤カバンに飛びついた俺はスマホを探したが、見つからなかった。というより、鞄の中が真っ黒で見えなくなっていた。
「見たことのないマジックバックね。どこのメーカーかしら。わたしこれでもアイテムには詳しいつもりだけど…」
メディがそう告げた。いやまさか。
「え、これって…中身どうなってるんすか?」
「マジックバック持ってるのに使い方知らない訳?あなたほんとにヒーローなのかしら??念じれば入れたものくらいわかるでしょ!?もうボケ始めたのかしら?」
まさか。手帳と念じながら手を入れると、手帳を手で掴むことができた。薄々感じ始めていた疑念が確信に変わってくる。この部屋といい、このカバン、そして目の前の人物、ここは世界が違うのか?
「あの、、メディさん、本物ですか??」
「ハァ!?」
理不尽にも怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます