第18話 メイドと母のぬくもり

 視覚が【感 覚】をランク「E」に上げたことで、周りが見えるようになった。ただ、地球の代償を支払う前の私は【感 覚】のランクが「C」だったのと比べると、やはり視力とかは落ちているのだろうか? 今はあまり分からないが、後々違和感とか出てくるのかな? 


 そういえば、アンデット(レイス)だったときは普通に見えたし、聞こえたし、動けたけど、違和感はあまりなかったなぁ。ステータス画面は【知 力】と【精神力】以外がなくなっていたし……何故だろう?



 アンデット(レイス)や精霊など精神体のみの存在はその本人の持つがその精神体からだに影響を及ぼしている。もしライディがあの時、空を飛ぶイメージをしたならば、【魔 力】があれば、できていた。


 そもそも、自分が空を飛ぶようなイメージはしていなかったライディだが、イメージ次第では、地球に居た頃の自分よりも速く走れたり、思った通りのパフォーマンスを行ったりする事が出来るのだ。


 つまりイメージトレーニングしている事が、その通りに行える身体が精神体である。精神体はイメージ上の動きをそのまま再現してくれるある意味素晴らしい身体なのだ。


 ただ、これには、イメージが大切なのは確かだが、自分の身体の能力、ステータス以上のことを行うには【魔 力】が必要なのだ。


 今のライディは身体の能力を上回る動きを精神体では行えないのである。

 ライディのレイスだった頃の精神体からだの能力、ステータスは、【知力】と【精神力】を除いて地球の身体の能力がベースとなっていたのだ。



 そんなことなどライディは知る由もない。この世界の住民もほぼ知らないことである。



(……わからない。まぁ、いいや。今は早く成長できるように努力しよう!)


 と、言ってもライディは今、0才児の赤ちゃんである。出来ることは限られている。


 顔を動かして、周囲を観察しようとしても、首がまだ座っていない為仕方なく目で見える範囲だけで、周囲の観察をする。


 ライディのいる部屋の天井は木製の板が張られていて、隙間も目立つほどなく、前回の開拓村の家よりも遥かに良いつくりの部屋であった。部屋の壁はレンガ造りで隙間や傷などは見えるところにはなく、かなり洋風な家造りだと思われる。そして、調度品を見ると

 期で出来た簡素な机の上に蝋燭ろうそくっぽいものが置かれていたり何かの人形が置かれたりしている程度で日本人視点からするとかなり味気ない。

 ただ私が今いるところは茶色のベッドの上で、開拓村の時のように固い床に転がされていることはなかった。そして、開拓村のどの家よりも造りがしっかりしていて、文明差を感じてしまう。


(まぁ、出来たばかりの開拓村に良い家が建つ訳ないか)


 ――――しばらく、この部屋の観察をしていると足音が近づいて来るのが分かった。


 そして、その人物が木の扉を開き入ってきた。


「あら? ライディちゃん、目が覚めたのぉ~? お腹がすいちゃったのかな~?」


 その人物は肌の色は白く、ブロンドカラーの髪を背中に流し、瞳が茶色で少し垂れた目元が印象に残る優しそうな雰囲気をまとった容姿の女性だった。その女性の服装は映画やアニメなどの侍女やメイドが着ている様な服装だった。黒を基調とした長袖、ロングスカートの上に、白色の汚れの無いエプロンを着ている。


 ――――メイドさんだ!


 ライディは違和感のないメイド服を着た女性を初めて見た為、内心興奮する。


(コスプレ以外でメイド服着た人は初めてだな……。しかし、この女性、自然に来ていて違和感がなさすぎる! これが本物のメイド、侍女か!)


 日本で、たまに見かける仕事やコスプレのメイド服を着た人を見たことはあるが、服のデザインが凝り過ぎていたり、着慣れていない感があったりして、ライディにとってしっくりくる物があまりなかった。


 しかし、この女性はメイド服を着こなしている! メイド服を着こなす人物に出会うとこうも感動に近い感情がわいてくるものなのか。


 中学に入学したばかりのまだ着慣れていない制服姿の人を見るのと、高校生くらいになった人の制服の着こなしくらいに、同じ制服でも何かが違って見える。


 そういった「差」が感じ取れた。


「ライディちゃん、ちょっとまってねぇ~、今ママのおっぱいあげるからねぇ~」


 そういって、私に顔を近づけて、私に話してかけてくれる。


(んー? お腹すいている訳ではないけど……まぁ、いいや。あと、私の名前ライディなのね? たまたま一緒だったのかな? 分かり易くていいけど)


 優しそうな女性、ライディのママが白いエプロンを脱ぎ、黒い上着をたくし上げ――


 ――Oh! ママ! 着痩せするタイプだったのですね! 


 服の上からだと分からなかったが、かなりの物をお持ちだった。赤ちゃんが出来たことで多少大きくなったのだとしても元から大きかったのだろう。


 この優しそうな雰囲気と溢れる母性が神様と似ている気がして、ライディは心が癒される気がした。いや、実際に癒されているのだろう。


 ライディの母はたくし上げた服を、服についていた紐で縛って下がらないように固定して、ライディの身体を、頭を支えながら優しく手で包み、胸元まで持ち上げて、ライディを、母乳を飲ませやすい体制にしてくれる。


 ――――手が、温かいなぁ


 ライディは少し気恥しい気持ちはあったが、そこは割り切って、母の母乳を吸い、飲む。


 母の母乳は日本で飲む、温めた牛乳と何か違った、『ぬくもり』があり、吸うたびに、お腹と心が満たされていく。


 ――――あったかいなぁ……


 知らないうちに夢中になって母乳を飲み、眠くなっていた。


 ライディの目が半ば閉じかかってきたのに母が気付いたのか、ライディを優しくベッドに置き、頭を少し上げて、ライディの背中を指で“トントン”と軽くたたく。


 ――――あぁ、眠い。もう限界――――


「けぷぅ……」


「はい、ライディちゃん、お休みねぇ~」


 母が優しく、ライディの頭をなでる。


 こんなにも安心し、満たされて眠ることはいつぶりのことだろうか? 


 心が温まる、母の温もり、愛情、ライディが忘れていたものが、空っぽになってしまっていたものが満たされた。


 げっぷをし、母の『ぬくもり』を感じたままライディは眠りにつくのだった。

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