第17話 成長

 自分の意識がある程度はっきりしながら「死」を迎えるのは初めてだった。前々回は二度寝、前回はふて寝、意識がない内の「死」は、今回の「死」に比べれば幸せな死に方だとライディは思う。


 精神体からだが「死」に向かう時の恐ろしい程の多幸感。あれはある意味、本当に恐ろしいものだった。

 まるで、自分が強制的に人生に満足させられ、「死」へと促すような身体の内側から溢れ出るあの感情。それは正直もう二度と味わいたくないくらいライディにとって気味の悪いもので、ある意味抗いがたい快楽に似た何かは、単なる苦痛よりも恐怖すべきものだった。


 ライディはお酒を飲んだことはないが、お酒を飲むとテンションが上がり、身体が熱くなったように感じると聞いたことがある。

 死の間際の「あれ」とお酒が一緒だとは思わないが、お酒をたくさん飲んだら似たような多幸感や全能感を感じるのではないだろうか? 成長して、お酒を飲むときはあまり調子に乗らないでおこうと思う。「あれ」とお酒は関係ないが。多分。



 と、余計なことを考えていますが、どうやら転生したようである。以前と変わらず、何も見えない、感じない、動かない。


 しかし、わたしは前回から学習した! このまま放っておくと、すぐにまたアンデット生活になってしまうと! 


 こういう時は—―――


 ――――ステータス!


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名 前】ライディ

【種 族】人族 【年 齢】0 【魂の質】G

【異 能】魂装こんそう:短刀「アレク」G(0/10)


【筋 力】G(0/10)

【体 力】G(0/10)

【感 覚】G(1/10)

【敏 捷】G(0/10)

【耐久力】G(0/10)

【器用さ】G(0/10)

【知 力】E(60/1000)

【精神力】E(51/1000)

【EXP】150032

固有技能ユニークスキル】不滅精神 無限転生

技 能スキル】言語理解:日本語Ⅲ 英語Ⅰ 竜王国語Ⅱ 算術Ⅲ 料理Ⅱ 念話Ⅱ 体術Ⅰ 苦痛耐性Ⅱ 日光耐性Ⅰ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(ほう、ほう、ほう、相変わらずの最弱っぷりだねぇ……え?)


 とっさに心の中で目を擦る動作が思い浮かぶが……


(え? なんか色々変わってる?)


 【種 族】はアンデットではなかったので、まだ人族の0才児として生きているのが分かる。【魂の質】も相変わらずのランク「G」である。


 問題は【異 能】が発現している事と、その異能に「アレク」と書かれていることが理解できない。


(え? アレクさんと何か関係するの?)


 ジィィ……とステータス画面の【異 能】の部分を見つめて、何か見落としている情報が無いか探す。すると―――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 魂装:短刀「アレク」G(0/10)

【能力】―

 アレクの魂が宿った短刀。

 ランクを上げることでこの短刀の強化や能力の付与など様々な恩恵が得られる。

 ランクを上げるのに【EXP】を消費。

 これを使用する代償は無い。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――――は?


(アレクさん……何を間違えて、短刀に魂宿しちゃってんのぉぉぉぉおおおおおお!?)


 説明っぽいやつを読んで余計に分からなくなってしまった。


(アレクさんの魂が宿るということは……アレクさん短刀に転生したってこと!? え? アレクさんあの後死んだの!? まさか、私転生まで、かなり時間かかっていたかな? って、イヤイヤそんなことは関係ない。問題はアレクさんの魂が宿っている短刀が私の【異 能】。つまり私の能力の一部みたいになっているってことだよ! どうしy……)


 ライディは混乱して考えてもわからないことを必死に考えていた。

 

 この答え、真相が分かるのはもう少しライディが成長してからである。


 

(まぁ、分からないことは分かったから次いかないと。またアンデットになっちゃう)


 アレクについて考える事を一旦やめ、他の項目を見ていく。


【EXP】が異常に増えているが先ほどのアレクの件で驚き疲れた為、「ラッキー」くらいにしか思わなかった。一瞬増えた理由が気になったが、どうせ分からないだろうと思い、疑問を流した。


技 能スキル】についてはいくつか増えていた。苦痛耐性Ⅱと日光耐性Ⅰである。これには自分でも何となく理解できるものだったので特に何もない。


 現状のステータス画面の確認があらかた済んだところで、【EXP】をステータスの生きるのに不足しているで、あろう各項目に振り分ける。

 任意で【EXP】を振り分けるとポイントが倍消費されてしまうから、あまりやりたくないが、やらねば1週間も持たない可能性が高いので、ランク「G」を全て最低限生きていけそうなランク「E」にする。【異 能】は……また今度で。


 ―――アレクさんごめんね


 と、言う訳で振り終えました。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名 前】ライディ

【種 族】人族 【年 齢】0 【魂の質】E

【異 能】魂装(こんそう):短刀「アレク」G(0/10)


【筋 力】E(0/1000)

【体 力】E(0/1000)

【感 覚】E(0/1000)

【敏 捷】E(0/1000)

【耐久力】E(0/1000)

【器用さ】E(0/1000)

【知 力】E(60/1000)

【精神力】E(51/1000)

【EXP】150032-1318=148714

固有技能ユニークスキル】不滅精神 無限転生

技 能スキル】言語理解:日本語Ⅲ 英語Ⅰ 竜王国語Ⅱ 算術Ⅲ 料理Ⅱ 念話Ⅱ 体術Ⅰ 苦痛耐性Ⅱ 日光耐性Ⅰ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 【EXP】をステータスの各項目に振り終えると変化は劇的なものだった。


 今まで閉ざされていた瞼が開くようになり、視覚が戻る。

 耳が周りの空気の振動を拾い、音としての情報が分かるようになる。

 身体が、手足が自由に動くようになる。

 周りの空気の匂いが分かる。

 何も食べていないはずなのに、ほんのりと甘い柔らかな味が舌を刺激する。


 神経と言う神経が、身体中に張り巡らされるかのような錯覚を覚える程、自分の身体を取り戻すかのような錯覚を覚える程、身体の変化は劇的なものだった。

 特にどこが痛かったりとか、手足が無かったりとかは感じられない。おそらく健康な赤ちゃんだろう。


 ―――しかし、


 自分を取り巻く環境が刺激的なものだった。初めからあると分からないものだな。と思う。


 物事を感じ取ることが出来る素晴らしさ、「普通」に生きることのできる素晴らしさ、安心感が改めて良く分かった。


 そして、ランク「G」から「E」に各項目を上げただけで、これだけ世界が拡がるのだ。自分自身が成長した先で見えるもの、感じられるもの、様々な物事が楽しみになってくる。


(これは、頑張りがいがあるね!)


 一刻も早く次のランクへ、ステージへと行きたい衝動に駆られるが、まだライディは人間の赤ちゃんである。


 今は、今感じられるものを目一杯楽しむとしよう。


 ここからがある意味、私の冒険の始まりなのかもしれない。


 ―――なんちゃって

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