第13話 狂戦士
(すまん! もう少し、もう少しだけ、耐えてくれ! ライディ!)
アレクはライディに(耐えてくれ!)と思うも、胸中では複雑だった。今も、ライディの悲鳴が念話を通して、脳内に響いてくるのだ。
あんなに何も知らず、子供みたいに世の中の穢れを知らないような娘が、今、この世の理不尽と対峙させられている。
そう考えると、囲まれていようが何だろうが、真っ直ぐライディの元に向かいたい。
槍を持つ手が震える。
今すぐに駆け出したい、今すぐに助け出したい、今すぐに救いたい、今すぐ、今すg……
ライディのことを思えば思うほど、焦りが生まれ、手に力が籠められる。
(俺はあいつに信じろと言った、それにあいつは、ライディは頷いてくれた……なのに、俺は、俺はぁあ!)
身を焦がしそうなほどの怒りが籠る。
ライディを追い詰める敵に対しても怒りはあるが、それ以上に守ると宣言しておいて、自分が不甲斐無いことが原因で守る対象を傷付けてしまった、自分自身にこれまでにない程の怒りの感情がわいてくる。
「ふん、我らに囲まれたことで恐れでも成したか? 震えているぞ?」
神殿騎士はアレクが恐怖により、身を震わせているのだと勘違いしているが、アレクはそれを肯定も否定もせず無視する。
「我ら、神殿騎士2人に門番1人が敵うはずがない。おとなしく投降しろ。そうすれば少しはマシな待遇で――」
アレクは神殿騎士の言葉の途中で、正面の敵に肉薄し槍を突き出す。
「チッ、あっぶねぇ。人が話してるときに攻撃なんかするなよ。卑怯だと思わんのか?」
アレクの攻撃を危なげなく躱す神殿騎士。
今の攻撃が当たるとはアレク自身思っていなかったが、相手は不意打ちを難なく躱し、喋りだす余裕もある。もうすでにアレクは身体強化の魔法を使っているが、相手も同じだろう。今のアレクでは、神殿騎士1人と良くて互角くらいだろう。それが2人。普通にやっていていては勝てる筈もない。
(騎士2人で1人を囲う奴らに言われたくなねぇわ!)
そう考えた瞬間にアレクの後ろから上段から切り込んでくる神殿騎士。
それを横に飛び回避し、再び囲まれないように移動するが、そこは相手も素人ではない為、有利な位置関係を崩さないように、相手がうまく立ち回っている。
(クソッ! このままでは、じり貧だ)
囲まれたままでは槍で間合いを開けて、敵を牽制することしかできない。救援が来る状況で時間を稼ぐのであればそれでも良いのだが、今は全く時間が無い。
しかし、神殿騎士もあまり攻撃してこようとはせず、むしろ時間稼ぎに徹している立ち回りをしてくる。
(あくまで、狙いはライディか……)
そろそろ、神官がライディに追いついてしまう……
この状況を打開しうる方法は—―――――ある。
しかし、それをすると……
「おや? 我々と戦っているのに考え事かね? 随分と余裕だな?」
(お前らだって、俺に隙があっても攻めてこねぇじゃねぇか)
「何だよ、まただんまりか。つまらんな。……お? あのアンデットの娘のうるさい声が止まったぞ? ブーデ様が始末したのかもな?」
アレクはライディの悲鳴が止まったことに驚き、戦闘中にも拘らず、ライディがいる方向を見てしまう。すると、目に見えた光景がライディに対し、ブーデとか言う神官が魔法を放っていた、耳障りな馬頭と共に。
悲鳴が止まった瞬間、脳裏にライディが死んでしまったということを考えてしまったが、むしろまだ、
ライディは生き足掻いている。攻撃を耐えている。
ただ悲鳴も上げられない程のダメージを負ったということも考えられるが、
どちらにせよ、時間はない。
――迷うな、
――覚悟を決めろ、
――守れ、
――助けろ!
――ライディ以外を気にするな!
「スゥーーーーーー」
アレクは大きく息を吸う。
するとアレクは自然と怒りに支配されていた頭がすっきりしたような、ある意味爽快な気分になった。
自分で外せる足かせを今、自分で外したような気分だ。
覚悟を決めた。
ライディ以外を犠牲にする覚悟を
叫ぶ、その能力の名を、【異 能】の名を
「――――
今まで口を開かなかった、アレクの出した妙なくらい声は村中に響き渡った。
アレクがそう叫ぶと変化は起こった。
アレクの身体から湯気の様な煙が上がり、赤く透明なオーラがアレクを包む。
「何!? 門番ごときが【異 能】を扱うだと!? 拙い! 止めを!」
神殿騎士がアレクの変化に気付き、早々にアレクを殺そうと、剣を振り上げ、接近する、が
「何!?」
上段からの一撃を素手で、受け止められてしまう。
神殿騎士が攻撃を止められたことに動揺した瞬間、
アレクの拳が神殿騎士の顔面をとらえ、
顔が飛ぶ
首の動脈から血液を規則的に吹き出し、
神殿騎士の身体が何かを思い出したかのように、揺れ始め、バタリッと倒れる。
周囲に血が染み出す音が静かに響く
するとアレクが何もなかったかの様にもう一人の神殿騎士に振り返る。
アレクの様子に状況を理解し神殿騎士が顔を青くする。
「化け物が」
神殿騎士が吐き捨てるように呟き、バックステップし、距離を取ろうとする、が
「ッ!?」
バックステップの一瞬でアレクが接近し拳を引いている。
「ま、待っt――」
“ドンッ”と拳から繰り出されるような音ではない音が周りの空気を震わせながら、周囲に響き、神殿騎士のもう一人がさっきの人物と同じ末路をたどった。
この一瞬の出来事を野次馬として、見ていた村人たちは誰も声を発することが出来ない。
アレクの行動が理解できないのだ。
魔法ならまだ分かる。圧倒的な火力で相手を倒したのだろう、と。
しかし、無属性魔法の身体強化の魔法でもあのアレク程、でたらめな強化はされないことは分かる。
この惨劇を見た村人の胸中の思いは一致する。
(――――化け物だ)
すると、アレクは村人たちに身体を向ける。
「え?」
村人の誰かが何かに気付く。
アレクがいない、と。
あの化け物はどこに行った? 見つからない。
すると、どこかからさっきと同じ様な振動が伝わってくる。
彼がその振動の方向を見ると、
「え?」
“ズウゥン”と村人たちの中から響く。
生きている村人全員が事態に気付き、理解する、
―――――逃げないと!
村人は走り出す。悲鳴を上げながら。
方向性の無い村人の逃走は、まさに「蜘蛛の子を散らす」様な状態だ。
しかし、化け物の近くにいた生きた存在が空気の振動と共に
また1人、また1人と赤い水を地にぶちまけながら地に付していく。
その異変は神官の方にも伝わっていた。
「何だ? 何が起こっている?」
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