第12話 悲鳴
暫くすると、アレクさんは寝支度を始めて寝てしまった。
ライディは眠ったアレクを見つめながら、改めて自身の立場の悪さについて思い返していた。いつもならこの時間は、
気分転換も一つの手ではあるが、それは現実逃避と大差ないとライディは考えていた。
(まさか、私の存在がそこまで危ういものだったとはね……)
地球でもお化けやゾンビと言った謎の存在は創作の中では忌み嫌われる存在として通っているのが普通だ。ライディも【種 族】がアンデット(レイス)となったとき、「これ、拙いかな?」と少しは考えていた。しかし、アレクの反応が、ライディがアンデットだと分かっても、驚いただけで友好的だったため勘違いしてしまっていた。
ライディはアレクの優しさに甘え、現状の認識を怠っていたことを悔やむ。
この世界の今のライディの存在は地球(日本)で言うところの、台所に良く現れ、カサカサと素早く動く、黒光りする虫、「G」と同じ様な感じである。
特に攻撃してくるわけでもないのに何故か異常に嫌われる存在、見つかったら必ず殺すように行動される存在。
この世界での今のライディの扱いはそれと一緒である。むしろそんな存在を受け入れていたアレクが異常だったのだ。
『はぁ』
そう思うとため息が出てしまう。
地球の「G」は人前に出てこなければ、人に殺されることはない。一般人はわざわざ「G」を探すこともないので見つからなければ、天寿を全うできるだろう。たまに、家に湧く「G」も含む害虫を駆除する業者と言った、隠れた存在を抹殺しようとする者たちもいるにはいるが。
そこまで考えるとこの世界の対アンデット(私)にとっての業者とは?
(……神官だ)
アレクさんは神官とは対アンデット戦のエキスパート的なことを言っていた。そんな存在が、私が逃走出来る夜まで待ってくれるだろうか?
と、そこへ、玄関の扉をノックする音が室内に響いた。そして、男性の声がする。
「アレクさん。寝てるところ済まないが、神官様がお前に会いたがっているんだ。支度して、出て来てくれ」
家の外の男性が言い終わるとすぐにアレクさんは起き上がった。
(え? 寝てなかったの?)
ライディがアレクの行動の速さに驚いていると、アレクはまるで今から戦いにいく様な装備をして、最後に短刀を腰に差し、槍を肩にかけるように持った。そしてライディに向かって、口を開く。
「ライディ、もしかしたら日が出ている間に逃げることになるかもしれない。拙い状況だったら、すぐに戻ってくる。もしも、俺が来る前に攻撃されそうだったら、日が出ていようと、何だろうと、とにかく森に逃げろ」
『分かった』
ライディは頷き、返事をする。
アレクさんは玄関と扉を開ける直前に止まって、つぶやく。
「俺は、お前の見方だ。……絶対に逃がしてやる」
その言葉はライディに向けられたものだったが、アレクさんの決意の証だとも思った。そしてその言葉は、私に対して「俺を信じてほしい」と言った気持ちが含まれるようにも感じた。
(そんなこと言わなくても、裏切らないと信じてるよ。アレクさん)
アレクさんが玄関を開けて、外に出る。すると――
「何!?」
アレクさんの驚きの声が拡がった。
そして、次の瞬間――
「ライディーー! 逃げろぉぉおおぉおお」
アレクさんの声とほぼ同時だった。
ライディはアレクが自分の名を叫んだ瞬間にもう時間が無いことを察し、家の壁を通り抜けて、外へ飛び出していた。
それと同時にアレクさんの家が炎に包まれた。
ライディはアレクの家が燃え出したことに、村人たちがアレクさんの家を取り囲んでいることに驚き唖然とするが、
すぐに全身を襲う陽光の痛みにより自分のすべきことを思い出し、
全てをすり抜けて走り出す。
絶え間なく熱さ、痛みがライディを襲う。
気を抜くと、すぐに死んでしまいそうな痛みだった。
苦痛で叫びそうになるが歯を食いしばり、
全力で走る、逃げる。
「お前ら、何のつもりだ!?」
アレクさんの怒りの
振り返らない。
「アンデットが逃げたぞ! この男はお前たちに任せる!」
神官の声が響く。
「行かせるか!」
“ドンッ”と爆発が起きたような音が鳴り、その振動がライディにも伝わる。
アレクさんの状況を気にしていられない、
走り続けなきゃ!
「門番風情がぁあぁあああぁぁぁあ! お前ら、手心加えずにやれ! わしはアンデットの娘を追う!」
「
「追わせる訳ね――ッ!? 避けろぉおおおぉお!」
ライディは全力で走っていた。
陽光の激痛を耐えて、炎の中を走り続けるような苦痛を耐えて、それに全力を注ぎ走っていた。
周りのことを気にしないのではなく、気にすることが出来ないくらいに全力だった。
アレクの警告はライディに届かず、
小さな光弾がライディに届いた。
その光弾には攻撃要素はなかった、人には。ライディがそれを背中に受けると、今までの灼熱による苦痛とはベクトルの違った、違和感が全身を襲った。
陽光の苦痛を耐えていたライディだがこの違和感には耐えられなかった。
『きゃあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁアアア!』
それに耐えられず、悲鳴が念話を通してあたり一帯に居た人々に届けられる。
そして、ライディは走っていた足が止まってしまい、更には、その場に膝をついてしまう。
この違和感、これは神官が放った光属性魔法の
この攻撃はアンデットにしか効果はない。
ただ、この魔法は死者を浄化する魔法で、ライディは単なる痛みではなく、精神を、心臓を直接撫でられるかの様な気持ち悪さを、恐怖を、感じとっていた。
今すぐ死んでしまいたいと言う本能的な何かが、
灼熱の陽光に全身、外側を焼かれ、魔法によって精神を、内側をかき乱される。
ライディは涙を流し、両腕で自身を守るように抱きかかえ、その場に蹲ってしまう。
ライディの苦痛が念話を通して連続してあたり一帯に届く。
「ライディ!」
アレクがライディの悲鳴が脳内に直接届けられ、思わず足が止まってしまう。
それをチャンスとばかりに神殿騎士2人がアレクと距離を詰め、
アレクが少し遅れて、距離を取ろうとするが、
2人に囲まれた。
「よし、お前らはそいつを始末しろ! わしはアンデットの娘をやる」
それを幸いに、神官がライディの元に向かう。その顔は狂喜に満ちた顔をしていた。
「クソッ!」
アレクの顔が苦渋に染まる。
今も響くライディの悲鳴がアレクを焦らせる。
歯を食いしばり怒りを、悲しみを胸中に抱きながら槍を敵に向けて、アレクは飛び出す。
(すまん! もう少し、もう少しだけ、耐えてくれ! ライディ!)
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