第10話 来客と焦り
だが、ズルズルと時間が経ち、もう1年も一緒にいて、今更放りだせなくなってしまったそうだ。
次にこの世界の魔法について、アレクさんから教えてもらった。
魔法には属性があって、全部で7つある。
・火属性魔法:主に炎や熱を司る魔法
・水属性魔法:主に水を司る魔法
・土属性魔法:主に土、泥を司る魔法
・風属性魔法:主に風、大気を司る魔法
・光属性魔法:主に生命、回復を司る魔法
・闇属性魔法:主に精神、感情を司る魔法
・無属性魔法:どの属性にも属さない魔法
これを聞いた時、無属性魔法はこの世界の住民が、どの属性か選別出来なかった魔法をとりあえず無属性と大雑把にまとめただけだろうなと思った。アレクさんが説明し辛そうにしていたので、そんなところだろう
大体のアンデットは光属性の魔法に弱いらしく恐らく私も例外ではないだろうと言われた。しかし、光以外の属性も普通に効くらしく、レイスのような実体のないアンデットの強みは、純粋な物理攻撃の効果が薄いことだそうだ。ただ魔法は効くので、別に特別面倒な相手でもないそうだ。
つまり私は簡単に倒せないと思いきや、普通に倒せる存在ということだ。身体強化の魔法と同じ要領で魔力を操作して目に集中させれば、私は視認できるそうで、簡単に見つけられる。透明人間も見えていればただの人間? と変わらない。
魔法はいろんなことが出来て奥が深い。地球の感覚でいては、すぐに足元を救われかねない技術だ。
そして、この魔法を使う上で最も大切なのが【魔 力】であると言われているらしい。
【魔力】が少なかったりランクが低かったりすると魔法を使えないそうです。
つまり私は、そもそも【魔 力】がステータス画面にないから魔法に関しては何も使えな
いということである。
私が魔法を使えないことをアレクさんに伝えたら、めちゃくちゃ驚かれた。なんでもレイスは魔法主体で攻撃してくるアンデットらしく、ライディも特殊な個体だが使えるものだと思っていたそうだ。
そして、この世界では魔法は生活にも根付いていて、多少苦手でも簡単な魔法も使えない人は見たことがないと言われた。というか魔法なしにどうやって生活していけばいいのか分からないとまで言われた。
その話の時の、アレクさんの私を見る目が可哀そうな奴を見る目をしていたのがとても印象的だった。
他にもアレクさんの冒険者だった頃の仕事の話や友人の話などたくさん聞いたり、ライディの自己流体術について色々指摘されたりと色々と学べた1年だった。
この1年でこの開拓村に少しだけ変化があった。村の範囲が拡張され、人が移住してきたのだ。
それでも、アレクさんは変わらず、夜に門番の仕事をしている。もちろん私もそれについていく。夜しか私は出歩かないので、この村の変化があまり分からないが松明の数が増えた気はする。
『アレクさん、今日もゴブリン来ると思いますか?』
「わからん。武器が消耗するだけだ、正直こないで欲しいものだ。」
『武器ならたまに来る、商人の所から買えばいいじゃないですか?』
「あんな粗悪品買えるか。ぼったくりもいい所だぞ、あの武器。」
『へ~。私、武器の良し悪しなんか、わかんないけど……アレクさん分かるんですね。』
「まぁ、大体は、な。武器が命みたいな仕事をしてるとそれなりに武器にも気を遣う。」
ライディはアレクさんといつも通り他愛もない話をして門に向かう。
ライディたちが門について暫くすると、珍しいことに1台の馬車が来た。その馬車は、見たところ車輪や御者台は木製で、荷台には薄汚れた布が張られており、中身は確認できない。しかし、荷物でも人でも余裕で入ることのできる空間はありそうに見えた。
アレクさんと出会ってからのこの一年間、この時間帯に村の外から訪ねてくる人はいなかった。
アレクさんは「来客なら出迎えるしかないと」と言って馬車に駆け寄り、馬車の御者に要件を聞こうとする。
そこへ馬車の荷台から野太い声があたりに響く。
「おーい! 馬車が止まったが、もう降りて良いのか?」
「へい! もう開拓村につきましたぜ。神官様。」
「何!? 神官だと!?」
アレクさんは、その神官様と御者の問答に驚いたのか、動揺した声を上げ、私の方に振り返り、アレクさんが私を背中に隠すような位置に移動し、馬車に対峙する。
(え? え? アレクさん急にどうしたの?)
ライディはアレクの行動の意味が良くわからず、困惑するが、アレクの真剣な表情から疑問を自分の中に止めて、状況を見守ることにした。
そして、状況はすぐに変化した。
馬車の荷台に居たらしき、神官1人とその護衛2人が荷台から降りてきたのだ。
神官と思わしき人物は白を基調としたローブのような服を着て、全身を覆っているが、ライディが眉をひそめてしまうくらいにローブの人間にあたる腹部の所が膨らんでおり、ライディが創造していた神官の像が崩れ去ってしまった。そして、顔もお腹の膨らみに比例したかのように、大きく、首と顔の境目が今一つかめない風貌をしており、一言で言うなら、カエルの様であった。
ライディにとって、神官とは仏教の修行僧のような厳しい修行の末、何かしら悟りを開く存在だと思っていた。元々、ライディは地球の宗教について詳しくはなく、漠然とした宗教のイメージしか持ち合わせていない。
しかし、この世界(開拓村)に転生してから元自分の両親を含めて、このむらの住民は、みな筋肉質で、無駄な脂肪が無い状態だった。そういったところに1年間もライディは過ごしてきた為、この神官のような風貌をした人物が、より異質に見えてしまっていた。
次に神官の護衛と思われる2人は、同じ格好をしていた。その姿は全身が金属鎧で覆われており、動くたびにガチャガチャと金属のぶつかる様な音と擦れる様な音がなっていた。そんな二人はそれぞれ、木箱を両手で抱えて、顔が見えなかった。
ライディがアレクの肩口から彼らを観察しているのに気付いたアレクは更にライディを隠すように動き、ライディに小さく「余計なことをするな」と言う。
アレクがいつになく真剣な表情なので素直に従う。
「ここが、開拓村か。貧相な柵、貧相な門。それに私が来たというのに村を挙げての出迎えもない。この村の程度が知れようというものよ。おい! そこのお前、私たちをさっさと出迎えるように村長なり代表者に伝えろ。」
(はぁあ!? いきなり来といて、いきなりこの村に文句言うとか、おかしいでしょうが!? あんた、何様のつもり!? この村が不満なら他のどこかに行けば!? と言うか、アレクさんに対してもすごく失礼! ほんとに神官?)
とライディが内心、神官の言葉に怒っていたら、神官がアレクとライディの方を見て、
「ほう……なかなか。おい、そこの娘、私たちを村へ案内しろ」
(え? む、娘? ここに女性は……いない。え? 私見つかっている?)
ライディは神官に見つかったことに動揺して、頭が真っ白になってしまう。
しかし、アレクの行動は早かった。
「すぐに村長呼んで来る。あんたらはここで待ってろ!」
アレクは神官のライディへの指示が聞こえなかったかのように行動し、身体強化の魔法を発動しライディの腕をつかみ、ライディと共に村の中へと逃げるように走っていった。
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