第5話
「昨日は暗くて見えなかったけど、この街はこんなに綺麗だったんだ!」
ルルはあちこちをチョコチョコと走り回り、周りをキョロキョロと見回している。
「確かに昨日は日が暮れていたから、ルルにとっては見える物全てが新しいかもね。この街にはまだまだいろんなところがあるから、はしゃぎすぎて疲れないでね?」
「うん!」
そう言いながらもルルは目をキラキラさせながらあちこちウロウロしているので、ルルが本当に話を聞いているのかよくわからない。
ルルと添い寝してから無事夜が明けたのだが……よく寝れた。あの狭いベッドに二人は無理だろうと思っていたけれど……うん……めっちゃ寝たね。
そんなわけで、ルルもララもとても元気だ。
「ルルはどこか行きたいところってある?」
ルルに聞いてみた。出来るだけ希望に添いたい。
「行きたいところ?うーん……なにがあるか分からないからなー」
確かにそうだ。
「そしたら市場にでも行ってみる?色々な食べ物のお店が並んでるんだよ。あそこなら私の知ってる人がいっぱい居るから、何かサービスしてくれるかもよ?」
ルルは食べ物に食いついてくれるかな?
「何それ面白そう!行きたい!」
ルルの目はキラキラとしていて、興味津々と言った感じだ。
「よし!じゃあ早速行こう!」
「おー!」
二人は市場に向かって歩き出した。
それからしばらく歩いて、二人が市場に着いたのは昼前だった。
「やっと着いたー、ここが市場だよ」
「おおー!ここが市場!」
大きな石畳みの広場にいろんな人が小さな屋根代わりの布を張り、台を置いて、その上に商品を置いている。
ここまで来るのに長い時間歩いていたような気がするが、移動中もルルはずっといろいろな物に興味を示して「あれはなに?」「これは?」と聞いてきたので、道中はしんどくなく、むしろ楽しかった。
「何か気になるお店はある?」
私はルルに聞いた。連れ回すより、ルルの行きたいところに連れて行くのが一番だろう。
「うーん、よくわからないけどあっちから美味しそうな匂いがするよ?」
ララは指差した先には人だかりができていた。確かに良い匂いがする。
「そうだね。じゃああっちに行ってみる?」
「うん!」
匂いにつられ向かったそこはパン屋だった。
「あ!パンだ!ルル!パンが売ってるよ!」
「パンなら小さい頃に食べた事ある!」
それなら話が早い。
「よし、行こう!」
二人はとりまきの人混みの中をかき分けて、なんとか店の前までたどり着いた。
「美味しそうなパンがいっぱい置いてあるね。ご主人様は何を食べるの?」
「どうしようかなー……どれも美味しそうで目移りしちゃうよ。じゃあクロワッサンにしようかな」
「ルルはこれが食べたい!」
そう言ってルルが指差したのはメロンパンだった。
「おー良いね。じゃあそれにしよう。店員さーん!」
私は大きな声で店主を呼んだ。
「いらっしゃい可愛いお嬢ちゃん達!おお!ララの嬢ちゃんじゃないか!その子は?」
店主はルルのことが気になるらしい。
使い魔とか言ったら怖がられそうだから適当に誤魔化しとこ……。
「私の友達よ。最近こっちに来たの」
「おお!そうだったのか!可愛らしい友達を持ってるじゃないか。いいねぇ、若い子の友情……おっと、いけねぇ後ろの人が待ってるな。つい話しすぎてしまうんだよな……さぁ嬢ちゃん達、何にするんだい?」
店主は人当たりの良い優しい笑顔で聞いてくれる。
「えーと、メロンパン一つとクロワッサン一つ!」
「おう毎度あり!お嬢ちゃん達可愛いからちょっと安くしといてあげるよ!」
「ありがとう、嬉しいな」
ララが照れているあいだにも、店主は他のお客さんの注文を聞きながら、慣れた手つきでパンを袋に詰めていく。
「ほいお嬢ちゃん達、焼きたてだからあったかいうちに食べてくれよ!」
そう言って店主がパンの入った袋をララに渡してくれた。
「ありがとう。ほら、ルルも言って?」
「ありがとう!」
「おう!また買ってくれよ!」
店主に手を振って二人は人混みを抜け出した。
「このパン、どこで食べる?」
ルルが聞いた。
確かにこの辺りの広場の隅で食べるより、そこかに座ってゆっくり食べたい。
「うーん、見晴らしのいい高台とかに行けばベンチとかあるはずだから、疲れてるかもしれないけどそこまで歩かない?」
「わかった!美味しいパンのために頑張る!」
ララの提案で二人はまた歩き出した。街案内も兼ねてるからいろんな場所に行けて良いよね。
「うー、やっと着いた……私は何で高台で食べようだなんて言ったんだろう……」
距離でいうとそれほど遠い距離ではない。しかし高台には階段が付き物だ。私の体力は階段でゴッソリ削り取られた。
「もう、ご主人様は体力なさすぎ!もっと運動した方が良いんじゃない?」
「うるさいなー、ルルが元気すぎるんだよ。あんなにはしゃいで何で疲れてないの……」
ルルは最後まで『一段飛ばしー!』などとはしゃいでいたのに対し、ララは階段を登るにつれて明らかに歩みが遅くなっていた。
「私は体力いっぱいあるからね。それより!温かいうちにに早くパンを食べようよ!」
ルルはパンのことで頭が一杯のようだった。
「そこにいる方たち」
突然おばさまに声をかけられた。
「なんですか?」
ララは聞いた。
「ここのベンチからの景色がとても良いんですの。いつもはよく他の方たちが座ってて使えないんですのよ。でもアタクシは今から帰るとこだから、アナタたち座って行かない?」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて使わせていただきます」
「それじゃアタクシはこの辺りで……」
おばさまはそう言うと、階段を降りていった。
二人は言われたベンチに座った。確かに景色がすごく良く、この街が一望できた。
じゃあ少し遅めのお昼ご飯だ。
「はい、ルルのメロンパンだよ」
ララは袋からメロンパンを出した。
「おお!食べていい?」
ルルの目がキラキラと輝いていた。
「良いよ」
「やったぁ!いただきまーす!あむっ、」はむはむ……うーん!甘くて美味しいー!」
ルルは足をバタバタさせて、全身で喜びを表していた。美味しそうに食べるなぁ……。
私もクロワッサン食べよ。パクッ……。
「おお、クロワッサンサクサクで美味しい!」
こうして一人でパンを味わっていると、突然口元にメロンパンを差し出された。
「はい、あーん。食べてみて?」
まさかルルが食べさせてくれるとは思わなかった。
ではお言葉に甘えて…
「あーん……」
おお!皮はサクッと、中はメープルが染み込んで優しい甘さで美味しい!
「んー!美味しいね!あ、そうだ。お返しに私のクロワッサン食べる?ほら、あーん。」
私はクロワッサンをルルの口の前に持ってきた。
「あーん……おー!美味しいー!」
ルルはクロワッサンを口にすると、またもや足をバタバタさせた。ルルは美味しいものを食べた時に体全体で表現するらしい。かわいいなぁ。
二人はあっという間に完食してしまった。
「美味しかったね!」
ルルは満足そうに言った。
「そうだね、また買えたらいいね」
「うん!」
また見つけたら買ってあげよ……。
「さて、次はどこ行く?疲れたなら帰ってもいいし、まだ街中を巡ってもいいよ?」
ララはルルに聞いた。
「うーん……もう少し街を見てみたいな。」
ルルはまだ疲れてないみたいだ。
「じゃあ噴水のある広場に行こう。この街の噴水はすごいんだよ?」
「噴水?」
「あれ?ルルは噴水を知らないの?」
「うん」
意外だ。
「まぁ見にいけばわかるよ。ルルも気に入ってくれるはず。人がいっぱいいてとても賑わってるよ」
「おー!。楽しみ!」
その時だった。
『キャー!!!』
どこからか悲鳴が聞こえた。
その直後──。
バーン!!!
「爆発?!」
ルルは驚いて叫んだ。二人は高台の柵から身を乗り出して遠くを確認する。すると、遠く離れた向こうの方で火の手が上がっていた。
「ん……?ねぇご主人様、爆発のあった所で魔物が暴れてるよ!それもたくさん!」
ルルは魔物としての驚異的な視力で遠く離れた噴水周辺の様子を捉えた。
「本当だ、あの辺りは……行こうとしてた噴水の広場だ。確かにすごい量の魔物だね……」
ララは持っていた望遠鏡で大量の魔物を確認した。
「──行こう」
「え?」
ルルが小さな声で何か言った。
「早く行こう。このままだとたくさんの人が危険に……!」
「待って!ここから噴水までは遠いって!今から行ってもきっと街の自警団が全部片付けた後だよ!」
「そんなの待ってられない!」
ルルは柵に右足をかけた。ララは慌ててルルの腕を掴んだ。
「え?!ちょっと!何しようとしてるの!?危ないよ!」
「私が倒しに行く」
「え……?」
「私があの魔物を倒しに行くの!」
「あの量の魔物を一人で相手しようとしてるの?!さすがに危険だよ!」
「ララ、私を舐めないで」
ルルの口調が強くなった。私はルルが怖くなって怯んだ。その瞬間、ルルは私の腕を振り解いて、噴水の広場に向かって飛行魔法で飛んで行っってしまった。
「ちょっと!ルル!」
魔物を倒しに飛んで行ったが、ルルだって同じ魔物だ。魔物が街中で暴れたら、ルルが自警団に目をつけられたら、どうなるかは目に見えている。自警団に殺されるだけだ。それじゃあ本末転倒だ。
「戻りなさい!ルル!」
ララは咄嗟に魔導書を出してルルを召喚した。手に魔法陣が浮かび上がる。しかし──。
パリン……
「拒否された?!」
魔法陣は突然壊れた。
このままじゃ本当に行ってしまう。
ルルを止めに行かないと。
そう思った時には、ララの足は既に噴水に向かって動いていた。
階段を駆け降りる間に噴水の方から爆発音がきこえた。もうルルは戦いを始めたのだろうか。
広場を走っている間に、地響きが起こった。ララは転んでしまったが、すぐに立ち上がり、また走り出した。
噴水のある広場に続く、建物に囲まれた細い道は、広場から逃げる人たちであふれていた。ララは人の流れに逆らいながら進んだ。
早くルルの元へ向かわないと。ルルが人間に殺される前に。あの子だって魔物だ。
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