第2話
森の中で目が覚めた。視界一面に葉っぱの緑が敷き詰められている。どこからか小鳥のさえずりが聞こえた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。こんな無防備な状態で寝ちゃうなんて、危機感が無いな。気をつけないと。
うーん、なんか大事な事を忘れてるような……?でも、とりあえず起きないと。
体を起こそうとしたとき、女の子が私の顔を覗き込んできた。それも逆さに、つまり私の頭の方から覗き込まれている。
長く黒い髪、髪に隠れた右目、青い左目……
「おはよう。よく寝てたね、可愛い寝顔だったよ、ご主人様」
「──ルル!」
そこにはルルが居た。パッと見ただけでは人間と変わりない見た目をしているが、ララと契約した魔物だ。それも昨日。
頭が少しずつ冴えてきた。
どうやら私は起きるまでずっとルルに膝枕された状態で眠っていたらしい。
「ありがとうルル。大丈夫?脚痺れてない?」
これ以上ルルに膝枕してもらうのは申し訳ないので、とりあえず体を起こした。
「心配ありがとう、ルルは大丈夫だよ。むしろララの方が心配よ。せっかくご主人様を助けられたと思ったら突然倒れたんだから」
私は眠る前のことを色々思い出してきた。そうだ、ロックジャイアントに殺されそうなところをルルが助けてくれたんだっけ。
「あはは……ごめんね?助かったんだって思ったらなんだか安心しちゃって……」
「ふふ、それはなんだか可愛いね。とにかくご主人様が無事で良かった」
ルルはララを体に引き寄せると、優しく抱きしめてくれた。温かくて気持ちが落ち着く。私にお姉ちゃんは居ないけど、居たらこんな感じなのかな。私はしばらくルルに体をよせていた。
ロックジャイアントとの戦いがフラッシュバックする。反省しないといけないな。勝てると思っていたところから追い詰められた。ルルが居なかったら私はきっと死んじゃってたし、ピィちゃんを動けなくなるまで動かしちゃったし……
「あれ、そういえばピィちゃんは?!」
「わぁ!いきなり動かないでよ!びっくりするじゃない!」
ララがいきなり動いたので、ルルの体がびっくりしてピクッと跳ねた。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してたらピィちゃんが気になって」
「ああ、そうなの?ピィちゃんってあの鳥のことかな?」
ルルは真上の木を指さした。指先つられて上を見ると、そこには木の実を食べるピィちゃんの姿があった。
「ピィちゃん!」
私が呼ぶと、食事に夢中だったはずのピィちゃんは私に気付いて降りてきた。パタパタとゆっくり降りてくると、私の肩にちょこんととまった。
「無事で良かったー!ごめんね?働かせすぎちゃった」
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、ピィちゃんは笑顔で「ピィ!」と鳴いてくれた。
「仲が良いというか……信頼しあってるんだね」
ルルが微笑ましそうにこちらを眺めていた。
「この子は私が召喚術士になって初めて契約した子なの。まだ召喚術士になったばかりで、まだ誰とも契約を結んでない頃の話なんだけどさ。街を歩いていたら突然肩にとまってね?あまりにも可愛いから『この子を初めての子にする!』ってすぐに契約したの!」
「一目惚れってやつ?」
「そんな感じだね。一番付き合いが長いから、自然と信頼関係出来上がってきたんじゃないかな」
私は肩に乗っているピィちゃんの方を見て、「そうだよね?」と問いかけてみると、ピィちゃんは翼を大きく広げて「ピィ!」と元気よく答えてくれた。これは肯定してくれている時の反応だ。
「私も早くご主人様ともっと仲良くなりたいなー」
「これから時間はたっぷりあるんだからもっと仲良くなれるよ。」
ルルに微笑みながら優しく言った。
「そういえば、ロックジャイアントってどうなったの?」
大事なところで倒れてしまったので何一つ状況がわからない。
「ピィ!ピィ!」
ピィちゃんはルルの上で翼をパタパタと振って何かを主張している。『この子がとても凄かった!』とでも言いたいようだ。目がキラキラしている。
「え?ルルが倒してくれたの?!すごいじゃん!」
「えっと……うん……ありがと」
二人(一人と一羽)に褒められてルルの頬は赤く染まった
「どうやって倒したの?!」
ピィちゃんがこんなに目をキラキラさせるものだから多分凄いのだろう。ちょっと気になった。
「えっと……爆裂魔法を当てただけなんだけど……。一回当てたらバラバラになっちゃった」
ルルは頬を染めたまま言った。
……え?ロックジャイアントってそんな軽く倒せるモンスターなの?
するとルルはポケットから小さめの石を取り出した。
「その石ってもしかして……」
「ロックジャイアントの一部だよ。」
あー本当に一人で倒しちゃったんだ……この子ってこんなに強いんだ……。
私は驚きのあまり声が出なかった。
やっぱりこの子は可愛い少女に見えても魔物なのだと認識させられた。本当はツノとか尻尾とかあるしな……今は見えないけど。そもそも召喚術士は相手が魔物じゃないと契約できないけどね。
「ルル、ご主人様を守るために頑張ったんだよ?」
ルルはララにゆっくりと近寄る。触れ合える距離まで近寄ると、ルルは目をつむってララと向き合った。
──えっとどうすればいいの?意味深な発言の後に私の方を見て目をつむられても、私にはどうすればいいか分からないよ?
とりあえず頭でも撫でとく?
「よしよし、よく頑張ったね。ありがとう」
「頑張った甲斐があったよー」
ルルは頭を撫でられて、満足そうな顔をしてにっこりと笑った。
気がつくと、日が傾いてきていた。このままだと日が暮れる
「みんなとお話していたいけど、そろそろ街に帰ろうかな。家に帰れなくなっちゃうからね。みんなも自分の住処に帰っていいからね。また呼んだら来て欲しいな」
「ピィ!」
ピィちゃんはそういうと、空高く舞い上がってどこかへ飛んで行った。
「よし、私も家に帰ろう。」
ピィちゃんが遠くに行ったのを見ると、私は立ち上がった。
夜の森は危険だから日が暮れる前に早く戻らないとね。
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