召喚術士と使い魔
時雨澪
第1話
街から少し離れたとある森の中、少女が一人で歩いていた。亜麻色の髪は肩を少しこえるくらいまで伸びていて、綺麗なエメラルドグリーンの目をしている。
彼女は決して森の中を散歩をしに来たわけではない。最近出現したと噂のモンスターを倒しに来たのだ。
「モンスターさんには悪いけど……。街に来られると危ないからね」
少女はそう言葉に出して、自分に言い聞かせながら獣道を進む。ここに人が来ることは滅多になく、道は整備されていない。道を邪魔するように伸びた葉が鬱陶しい。抱えた召喚術の魔導書が少し重くて歩きづらかった。
この少女は召喚術という術を使って、魔物と契約し、召喚、使役する召喚術士だ。魔導書が無いと魔物を召喚する事が出来ないので、仕方なく持ち運んでいる。もっと軽くなれば楽なのに。
発見場所は確かこの先のはず……などと考えていると、突然開けた場所に出た。
森が円状にくり抜かれたかのように、この辺りだけ木が一本も生えていない。
この森にこんな所があったんだ……。少女は初めてこのような光景を見た。
とにかくモンスターの目撃情報はこの辺りだ。注意しなければならない。
辺りを見渡しても気と草しかない。しかし、くり抜かれた円の中心にはに目を向けると、そこには大きな岩がそびえ立っていた。
「何あれ?」
少女はその岩にゆっくりと近づいてみた。ぱっと見ただけだとただの岩だ。
しかし近づけば近づくほど、その岩がとてつもない大きさだということが分かった。少女がその岩に手を触れられる距離まで来たときには、頂点を見ようとすれば、尻もちをついてしまいそうな高さに思えた。
「何この大きな岩……」
大きさに呆然としていたその時、大きな岩がぐらっと揺れた。
少女は危険を感じ、すぐに後ろへ跳んだ。
巨石にヒビが入る。すると、そこから徐々に、複雑に割れていき、割れた岩のひとつひとつが脚や腕、胴体になり最終的には一つの人型モンスターとなる。
「ロックジャイアント……!」
巨大で、とても重い。体が全て岩でできたモンスターだ。踏み潰されればひとたまりもないだろう。
しかし、怯んではいられない。少女は目の前の敵を見据え、抱えていた魔導書を開いた。小さく赤い、小鳥の描かれたページだ。
「ピィちゃん!今日もお仕事頑張るよ!」
右手で魔導書に描かれた絵を優しく撫でると、その手をまっすぐ伸ばした。すると、手の先から魔法陣が出現し、そこから少女の声に応えるように、一羽の小鳥が勢いよく飛び出てきた。
小鳥は空をぐるっと一周すると、少女の肩にゆっくりと降りてきた。
「あの大きい奴、倒せる?」
少女は肩に乗った小鳥に聞いた。小鳥は、やる気に満ち溢れた表情をしている。
「じゃあピィちゃん!あいつを倒しちゃって!」
小鳥は高い声で「ピィ!」と鳴くと、巨大な怪物に向かって猛スピードで向かっていった。
ロックジャイアントは向かってきた小鳥を叩き落とそうと、その巨大な腕を大きく振りかぶって、上から振り落とした。しかし、怪物の動きは大きい分見切りやすかったのか、小鳥はやすやすと攻撃を避けた。
ロックジャイアントは攻撃を避けられたが、勢いがついていて振り下ろした腕を止めることができない。
ドーン!!
小鳥を攻撃出来なかったロックジャイアントの腕が地面を殴った。大きな地響きとともに地面がへこむ。こんな攻撃をくらったらと思うとゾッとする。
しかし、怪物の行動はこちらへのチャンスになった。ロックジャイアントはその重たい腕を持ち上げようとして動けないでいるからだ。
「さぁ、ピィちゃん!今がチャンス!攻撃よ!」
少女の指示が飛んだ。
小鳥は高く飛び、翼を大きく広げた。そして翼に力を溜め、思い切り振った。
小鳥の翼の一振りは風を起こした。その風は進む間に徐々に形を変え、透明な
そして着弾。
ロックジャイアントの体表が爆ぜた。
怪物の体表の岩が風の刃によって削られる。削られた岩は地面にパラパラと落ちていった。
ロックジャイアントは攻撃された時の衝撃でまた動けない状態だ。
今が追撃のチャンスだと思った少女は、さらに指示を飛ばした。
「ピィちゃん!今のうちに一気に攻撃よ!」
小鳥は翼に風を纏うと高く舞い上がり、そして急降下した。スピードに乗った小鳥は、ロックジャイアントに向かって猛スピードで進んだ。
そして動けないロックジャイアントに猛スピードの小鳥がぶつかった。
バーン!
空気の力で硬くなった翼が当たり、大きな音と共にロックジャイアントがゆっくりと倒れる。
倒れた衝撃で土ボコリが舞った。怪物はもう動かない。
ロックジャイアントを倒した!ピィちゃんが倒してくれた!
無事に倒せた安心感からホッとして、体の力が全部抜けて地面に座り込んでしまった。
良かった無事に終わった。
そう少女が完全に緩み切っていたその時、視界の端で土ボコリから黒い影が飛び上がったのが見えた。
少女は最悪の事態を想像してしまった。ロックジャイアントを倒せていない状態を。そんなことがあるはずない。驚いて空を見上げると、そこにはさっき倒したはずのロックジャイアントが空中にいたのだ。
「最悪だよ……」
跳び上がったロックジャイアントは、浮く手段など無く重力に逆らわずに落ちてくる。
「まさか、私に向かって……?」
少女は気付いた。ロックジャイアントは最後に力を振り絞って自分へ攻撃しているのだと。それも空中からの体当たりで。
あんな大きなものが跳べるなんて想像もしていなかった。
今すぐなんとかしないと死んでしまう。ピィちゃんは今動けないから、本を開いて誰か呼ばないと。
頭はよく回るが、どんどん近づいてくるロックジャイアントを見ると、死への恐怖で体が固まってしまって言うことを聞かない。
死にたくない。
まだ私は頑張れる。
誰か助けて……!
「助けに来たよ、ご主人様」
女の子の声が聞こえた。
突然、少女の体がフワッと浮いた。誰かに抱えられている。誰だろう。
長く黒い髪、髪に隠れた右目、青い左目……
「ルル……!」
ルルは少女を抱えると、ロックジャイアントを避けるように近くの茂みに隠れた。ルルはララをゆっくりと下ろす。
「よいしょっと……。ララ、大丈夫?」
「ありがとうルル、助かったよ。私はだいじょう……ぶ……」
バタッ
ララはそこで倒れてしまった。
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