第40話 轟音の来訪者

「リムー!!??」








倒れたリムは未だ意識があったが、痛みに苦しんでいた。ロゼッタとエリアスが急ぎ介抱をする中、アテナはアルトレに剣を抜き放つと同時に切りかかったが、その一撃は大鎌で防がれていた。








「貴様ー!?」






「よく吠えるわね。耳障りなのはペインで間に合ってるから、少し静かにしてくれない?」








アテナの目にも止まらない高速な抜刀術を難なく防いだアルトレは無表情のまま呟いた。その言葉に反応したペインは残念がる様子で言葉を発した。








「いや~辛辣だねアルトレ?しかし、君の一撃で未だ絶命してない子がいるとは、め~ずらしいね?」








「うるさい。貴方も切られたいの?」








何事も無かった様に対話する二人に激昂したアテナはアルトレに激しい剣撃を放ちながら言葉を発した。








「貴様ら!!絶対に許さない!!」








かろうじて息をするリムの姿を一瞥したアルトレは、アテナの剣擊を紙一重で受けながら徐々に後退していった。アテナの渾身の一撃が連擊の最中に放たれたのを皮切りに後方に大きく跳んだアルトレに物珍しさからかペインは目を一瞬見開いたが、その視線の先にはアルトレ越しに吹き飛ぶ様に地面を蹴りあげ向かってくる一ノ瀬がいた。








「うおぉぉぉ!!!」








吠えながら突っ込んで来る一ノ瀬の拳が二人目掛けて放たれた瞬間、衝撃による土煙が上がった。未だ苦しむリムを介抱する二人は、アテナの背越しに拳を放った姿のまま動かない一ノ瀬を疑問に思いながら眺めていたが、土煙の中から浮かぶ人影を見たアテナは焦る様子で一ノ瀬に呼び掛けた。








「!?一ノ瀬殿!急ぎ離れよ!!!」








「ぐ!?動かない!?」








土煙の中から現れたのは、先程まで王座に座っていたアドルフが魔族を庇う様に一ノ瀬の拳を片手で受け止めていた。


渾身の一撃を片手で受けられた以上に、体に微量の電撃が走り続け身動きが取れない事に一ノ瀬は動揺していた。その状態のまま、アドルフは背後にいる魔族の王に呟いた。








「魔族の王よ、ソナタが我に求める物は、この国の所持する魔導禁書と、この我自身であったな?」








アドルフの問いかけに魔族の王はかえした。








「そうだ。近々大きな戦を起こすつもりなのだが、色々あって人手が足らなくなってしまったのだ。魔導禁書を頂くのと同時に、【雷属性魔法】の最大の使い手である貴殿を我が傘下に入れたい。その見返りとして、この国の繁栄を約束しよう。」








淡々と流れるような会話にアテナ達は愕然とした表情でアドルフに叫んだ。








「アドルフ国王!?貴様この国を!母上が愛したこの国を繁栄の為に母上の敵に売るつもりか!?」










アテナの言葉に不愉快な目を向けた魔族の王を一瞥したアルトレとペインがアテナ達に向け構えた時、アドルフが口を開いた。








「理解した。ソナタの提案に乗るとしよう。ただ、今魔導禁書を持つのは目の前にいる我が娘達だ。して、ソナタに譲渡する事がいましばらく叶わぬゆえ、国の王としてあの者達から魔導禁書を取り返すまで暫く待たれよ。」








魔族の王は、何の反応も示さず王座まで静かに移動し、椅子に腰かけた。アルトレとペインもその後を追い、王座の左右に控えた。その様子を見向きもしないアドルフは、一ノ瀬を解放し、一同に言葉を発した。








「構えよ。目を見張れ。一刻の後に全てが奪われたくなければな?では、ゆくぞ?」










その瞬間、一ノ瀬の目の前に瞬時に移動したアテナは一ノ瀬を庇う様にアドルフの雷擊を受け流していた。目にも止まらぬ両者の攻防に一ノ瀬はただ立ち尽くしていた。


アドルフの攻撃を受け流していたアテナは苦しい表情で一ノ瀬に言葉を発した。








「一ノ瀬殿!私が攻撃を受け流す隙に、アドルフに攻撃を放ち続けてくれ!!」








アテナの言葉に我に返った一ノ瀬は、アテナの横からアドルフに向け飛び出したが、予測していたアドルフは片手を一ノ瀬方に向け魔方陣を展開していた。瞬時に放たれた雷の魔法を一ノ瀬も予測していたように左手を前に出し魔法を吸収し防いだが、あまりに強力な魔法に吸収が追い付かずアテナと二人で弾き飛ばされてしまった。








「ふむ、今の攻撃を凌ぐとは大したものだな。だが、二人で何処までもつか?」








アドルフの言葉に吹き飛ばされロゼッタ達の元まで下がってしまった一同は、苦虫を噛む様な表情だったが、その時何処からかセリスの声が聞こえきた。








「わらわの主殿を愚弄するとは?ソナタは何も分かってはおらぬのだな?」










セリスの声が聞こえた直後一ノ瀬達とアドルフの間に天井を突き破って黄金の鐘が落ちてきた。その上には優雅な姿でセリスが座り、何故かクラインとベルトレが鐘の下敷きになっていた。




驚きの顔をみせる魔族の二人を他所に、二人の王は眉すら動かさずに突如として現れた黄金の鐘に目をやっていた。土煙が収まり出した頃、アドルフがセリスに問いかけた。








「貴公は何者だ?」










「わらわはかつてこの世の災厄を払った【黄金卿のセリス】。今は主殿に使え、生涯をそいとげる伴侶とでも言うべきか?」










その言葉に二人の王は驚きを隠せずにいたが、一ノ瀬は未だ沈黙する場違いなクラインとベルトレに視線を離せないでいた。そんな中、セリスが場に居るもの全てに言葉を発した。








「準備運動は先程城門にて終わらせてきた。では、始めようではないか!」




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