第39話 二人の王
一ノ瀬達は、アテナ達の先導で王がいる玉座の間の扉までたどり着いたのだが、その場所までは先刻のように城の兵士達が気を失い倒れており、まるで玉座の間まで道を開くようであった。
玉座の間の扉を前に、アテナは語りだした。
「国内戦の際、王は指導者として玉座の間の中に居る事は確実だが、我等三人は王とこの国に離反と同等の行いをした。それはこの国にある【魔導禁書】を奪い去った事と、その際王に剣を向けた事だ。」
ロゼッタと一ノ瀬は、魔導禁書のフレーズに一瞬反応したが、目の前の扉に目を向けたまま真剣な表情でアテナの言葉に耳を傾けていた。
そのままアテナは続けた。
「我等の母上が亡くなって以来、王は周辺諸国と自国民をさらい、【沈黙の間】と言う地下投獄場でゴーレムと民を融合させる儀式を魔導禁書の力で行い、人造兵を作り出そうとしていた。何度か解放軍と言う組織により、捕らえられていた者達が解放されたが、原因となる魔導書と王には誰も届かなかった。此度の戦乱に乗じた私達は、王に敗北したが、国や民を見捨て命からがら逃げだしたのだ。だが、一ノ瀬殿に出会いもう一度奮起した!だから、我等はもう背は向けない。我が父を倒し、母上が愛した国に平和をもたらす!」
アテナの言葉に、エリアスとリムも力強い眼差しを扉に向けた。
一同の前の扉は巨大な鋼に絢爛豪華な装飾が施されており、長年様々な者達を苦しめていた王の事と共に、おそらく地下の牢獄の環境と全く違うであろう目の前の豪華な扉に嫌気がさし、自身の右腕に魔力を集め、扉に打ち込んだ。その瞬間扉は木っ端微塵に吹き飛び入り口を塞いでいた物は跡形もなくなった。
入口から真っ直ぐ行った正面には、王座に腰をかける猫の耳を生やした長い白髪に口と顎に髭を生やした老人がこちらに威圧的な目線を向けていたが、その周囲には獣人族の兵達が気を失い倒れており、王座に腰かける老人に向き合いながら目線だけをこちらに向ける三人の魔族が立っていた。
「兵は全て気を失っている筈だが?あれがこの国の訪問の礼儀なのか?であらば作法と言うものを見解しなおしたほうがよいのでは無いか?アドルフ王よ。」
魔族の三人の中で最も高い2メーター以上の身長に一際威圧感を放つ老人が王座に座る老人に視線を向き直し呼び掛けた。
アドルフ王と言われた椅子に腰かけたままの老人は目線を一ノ瀬から背後のロゼッタを含めた四人に向け、一瞬目を見開いたようにしたが、直ぐに元のい抜く様な視線に戻し、アテナ達に問いかけた。
「、、何故戻って来たのだ?王に切っ先を向け再び我が前に現れるなど、愚か者の為す行為と相変わらぬ事と知っての事か?」
アドルフ王の問いかけにエリアスが答えた。
「私達は一度は敗れましたが、この方々に助けられ、最後の決心を固めたのです!」
エリアスの後にリムが続けた。
「私はエリアス様に使える前に、沈黙の間で実験台にされていました。国を恨み、王族を恨みましたが、アテナ様に救い出してもらい、エリアス様と共に過ごす中で、この国の美しさを知りました。私の恩人の国をちっぽけな私ですが、お救いする手助けがしたい!私は、御二人と共にあり続け、本当に美しいバレット王国を取り戻したいと思います!!」
二人の発言に魔族の道化師の様な格好で爽やかな笑顔の男と、眼鏡をかけ自身より背の高い大鎌を携えた無表情の少女が反応した。
「いやー!私どもの王と貴国の王のだーいじな対話交渉中なんだけどもね~?」
「王と現国に離反した者達なんだから、礼儀も何も無いでしょうペイン?」
「ま~。アルトレにそれを言われると私も言葉がみーつからないね~!ただ、、」
ペインとアルトレと呼び合う二人は一ノ瀬達に振り返った。一ノ瀬達五人は相手の話しの中で、未だアドルフ王に視線を送る者が魔族の王だと知り、身動いだ瞬間。リムの肩から脇腹にかけて血が吹き出した。一ノ瀬は背後を振り返ると、無表情のアルトレがいつの間にかリムの体を携えた大鎌で切り裂いていた。
一瞬の出来事に切られたリムでさえ訳もわからない表情を浮かべていたが、次第に彼女は背中からゆっくり倒れだした。その光景をただ見る事しかできずにいた一同を他所に、ペインは真剣な眼差しで言葉を発した。
「私どもが忠誠を誓う王の御前での無礼は、命を対価にしても償う事は出来ませんね。」
〈ドサッ〉という音と共に倒れたリムに一ノ瀬は叫んでいた。
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