第30話 青き誓い

空が赤く染まる頃、関所の内側にある森林手前には、幾つもの墓標がたっていた。それは、一ノ瀬達により、関所で無くなった者達が埋葬されたものだった。先程まで作業をしていた一ノ瀬は、地面に腰を下ろし、バレット王国のある方角に沈みゆく真っ赤な夕陽を見詰め、ある思いを懐いていた。








「俺が暮らしていた日本と一緒の空なのに、ここには他に同じ物は無いな。、、いや、さっき埋葬した獣人の中には、人の顔に色々な動物の耳や尻尾がついていた者もいたし、人と同じように死んで逝くんだよな。日本とは違うこの世界で俺もいずれあの獣人達みたいに死んでしまったら、ちゃんと(美優)と同じ場所に行けるのかな?」








一ノ瀬は、傍らにある鞄に付けた二つの内、かつて妹に贈った方のキーホルダーに触れていた。間近で幾つもの命を失った者の亡骸を目にしていたせいか、未だ十代の一ノ瀬は平常心では要られず、哀しみを露にした表情で涙を流していた。そんな時、後ろから腕を首に巻き付けるように、ロゼッタは一ノ瀬を抱き締めた。








「大丈夫。あなたには私が付いている。会った事はないけど、あなたの妹さんの事も聞いている私が居る。あなたは何かあったら自分をかえりみずに誰かを助けるために動いちゃうけど、私はあなたをずっと見ているから、あなたをけして一人にしない。一ノ瀬、」






不意に名前を呼ばれた一ノ瀬は、後ろから抱き付き真横にあるロゼッタの顔に視線を振った。






「!?」


その瞬間、ロゼッタは涙を流す一ノ瀬の唇に、自身の唇を合わせた。ロゼッタは穏やかな表情で瞼をつぶり、若干頬を夕日の光とは違う暖かな色合いに染めていた。数秒の間唇で触れ合う二人は、一ノ瀬が身動ぎをするのと同時に離れていき、一ノ瀬は緊張で顔を真っ赤にしていたが、ロゼッタは再度一ノ瀬に語りかけた。








「セリスとは違うけど、これは約束。私はどんな事になろうとも、あなたを見続けてるから。また疲れた時は膝枕してあげる。だから、あなたは当分死ねないわよ!」








ロゼッタも一ノ瀬と同じように、この先に待ち受けている事に不安を持っていたが、一ノ瀬の独り言を聞いてしまった時、不意にに一ノ瀬に寄り添いたくなって無意識に動いていた。それはロゼッタが一番恐れる、一ノ瀬の死を連想してしまったからかもしれない。そんなロゼッタの行動に対し、思春期の一ノ瀬は慌てふためいたが、徐々に山陰に隠れる夕陽と同じ様に落ち着きを取り戻していった。








「、、ありがとう、ロゼ。」




いきなり愛称で呼ばれたロゼッタは自身の行った事を思い返し、真っ赤に染めた顔で歯切れの悪い言葉を放っていた。そんなロゼッタに笑顔を見せた一ノ瀬は、胸中で誓いをたてた。






(例え俺がこの世界からいなくなろうとも、ロゼッタや他の皆を絶対に守りぬく!だからそんな兄ちゃんを見守っていてくれ、、美優。)






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