第27話 異なる景色
ベルトレに魔力を共有させた一ノ瀬は、未だ立つまでに至らないベルトレをクラインに担いでもらい、セリスと共に地上へ続く坂を登っていた。そんな中、最後尾を歩いていたロゼッタはクラインの後ろに続く一ノ瀬とセリスを頬を膨らましながら見ていた。
「ちょっとセリス!何でそんなに引っ付いているのよ!?そんな態勢じゃこけちゃうわよ!!」
拗ねた様に注意するロゼッタに対し、セリスは一ノ瀬に胸を押し付ける様に腕を組ながら、後ろのロゼッタに視線を向けた。
「何じゃ?わらわと主殿に嫉妬でもしておるのか?であらば貴公も同じ様にすれば良かろう?反対側は空いておるぞ?」
セリスの胸が気になりソワソワする一ノ瀬を一瞥し、挑発するセリスにロゼッタは恥ずかしがりながらも自身のペッタンコな胸を確認した。直後、ロゼッタは死んだ魚の様な目で独り哀愁を漂わせた。そんなロゼッタを他所にセリスは話しをつづけた。
「それに、この場所に来た時わらわの事を心配してくれた主殿を少し気になっていた矢先、わらわの事を守ると誓った。あれはもはやプロポーズ同然!ならばわらわは一ノ瀬を主とし、この二度目の命が尽きようとも、その傍らに居る事を決めたのだ!それの何がおかしいのだ?」
セリスの言葉に反応を見せたロゼッタは耳先まで真っ赤に染め、セリスに反論した。
「プップロポーズ!?、、、」〈ジー〉
顔を真っ赤に染めていたロゼッタは、表情を変え、ヤンデレの様な目で一ノ瀬の背に何かを訴えていた。
(へー。あの言葉はプロポーズだったんですかー。へー。)
いまだセリスの胸にソワソワしていた一ノ瀬は、唐突に悪寒を感じ、身震いをしたが、セリスの胸に気を向けていた一ノ瀬に対し、先頭のクラインが何故か、自らの胸筋をピクピク動かしながら一ノ瀬と腕を組む事を考えていたのも、悪寒の一部だとは一ノ瀬は知るよしもなかった。
暫くすると地上の光が見えてきた。それを目にしたセリスは一之瀬の腕を引き、洞穴の入り口に向け駆け出した。
「主殿早く行こうぞ!」
「おい!セリスあんまり急ぐと危ないぞ!」
一ノ瀬の言葉を無視し、二人は洞穴から外へ出た。この世に生き返り実に百年程の間、一人で洞穴の中で過ごしてきたセリスは降り注ぐ太陽の光に薄めた目を次第に開いていき、一ノ瀬たちがさ迷っていた森とは違う小高い丘から朝日がのぼり照されはじめる下界を見渡す様に目の前の光景を、頬に伝う風を感じながら目に焼きつけていた。
「、、もうこのような景色を見る事は無いと半ば諦めていた。日々を無為に消化し、自害も考えた。だがそんなわらわを一ノ瀬が連れ出してくれた。それは他の者も同様に。生前はあまり気にもしなかったが、この世界はどんなにきらびやかな装飾品よりも美しいな。」
そう口にするセリスは洞穴を見つけた森とは違う小高い丘に出た事に驚く一ノ瀬の方にふりむいた。
「遥か昔、わらわを生き返らせたレインから聞いていたが、この穴は、中の者が望む場所に移動するらしい。主殿の表情を見る限り、おそらく来た場所と違うのであろう?」
未だ目の前の光景に理解が追い付かない一ノ瀬は、腕を組んだままのセリスと視線を交えた。
「そう、なんだ。ごめんいきなり見覚えのない所に出たからビックリしてた。」
そう言葉を返す一ノ瀬にセリスが語りかけた。
「見覚えの無い場所に来たのは、これが二回目であろう?」
「!?」
その発言は、一ノ瀬が召還された事を知っている様だった。
「主殿がレインに使ったあの力は、魔法とは少し違う。あれはこの世の理とは別のものだからな。まあ、見た目から薄々気付いてはいたが、隠してるふうでもなかったゆえ。」
そう語るセリスと一ノ瀬の背後から徐々に三人の声が聞こえてきた。暫くしてロゼッタたちの顔が見えてきた時、一ノ瀬は不意にセリスに引っ張られた。呆気にとられている一ノ瀬と違って、ロゼッタは二人を見て驚愕していた。そこには、洞穴の外で唇を合わせる一ノ瀬とセリスがいた。
ロゼッタは石にでもなったように洞穴の中で固まっていたが、動揺する一ノ瀬から唇を離したセリスは一ノ瀬に呟いた。
「これは誓いのキス。今後世界がわらわ達を引き裂こうとも、わらわはソナタの側にあり続けよう。」
朝日の光の中、セリスの白銀の髪が風になびきながら輝きを放っていた。
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