第26話 追憶の忘れ物
広間の中央で、赤い翼を広げたゴーレムにセリスが問いかけるが、出現から何の表情も無いまま、セリスの問いかけにさえ口を閉ざしつづけ、無感情の表情のまま、ゴーレムはセリスを見つめていた。そんなゴーレムに、セリスは再び疑問を投げ掛けた。
「何故だ?ソナタはわらわを百年近くここに閉じ込めたまま二度と帰ってこなかったはず!?何故ゴーレムに成っておるのだ!?何故何も言わずわらわの前から姿を消したのだ!?ソナタに一体何があったのだ!?」
「、、、、」
再度呼びかけたセリスに、尚も沈黙を続けるゴーレムは、無言のまま両方の手の平を上に向けた。その時、背後の門が輝き出し、ゆっくりとした動作で、左右の扉が開かれた。その門の中には巨大な黄金の鐘が中に浮いていた。一ノ瀬達は、明らかに武器とは違う黄金の鐘を不思議そうに眺めていたが、セリスは今しがた姿を現した鐘を見た瞬間一同に叫んだ。
「皆!急ぎその者から離れよ!!」
セリスの言葉に急ぎゴーレムから離れようとした一同を待たず、門の中で鐘が左右に振れた。広間には尊大な鐘の音が〈ゴーン、、ゴーン、〉と鳴り響き、ロゼッタとクラインは直ぐに異変に気付いた。
「なっ!?何だ?全身から力が、抜けるようだ!?」
「一体どうなっているの?」
「皆!急ぎ耳を塞げ!この鐘の音が続く間、音を聞く者の魔力を無作為に消滅させてしまう!」
次第にロゼッタが膝をつき意識を保つなか、セリスの言葉に皆耳を塞ぐがそんな中、ただ一人、平然と立ちつづける者がいた。
「ん?何で俺は何とも無いんだ?」
(((何故!?)))
セリス達は、未だ鐘が鳴り続ける中、その頭上にクエスチョンマークを出していた。そのまま時間にして数秒の間、呆気に取られていた三人であったが、我に返ったセリスは一ノ瀬に言葉を放った。
「一ノ瀬よ!この魔法は鐘の音を聞く者から魔力を消しさってゆくが、発動者はその音が続く間身動きが取れ無くなる!今この場で動ける者は貴殿一人だけだ!おそらく、これが最後だ。貴殿にわらわの全てを託す!」
セリスは何かを決意した表情で一ノ瀬に全てを託した。未だ魔法を放ち続けるゴーレムは微動だにせず、何の感情も持たない顔で一ノ瀬をを見つめていた。
一ノ瀬は、未だ鳴り続ける鐘の音を聴きながら、先程ゴーレムに問いかかかっていたセリスの言葉を思い返し、自身をみつめるゴーレムに何かを感じていた。
「分かった。」
一ノ瀬はセリスに一言返事を返し、ゴーレムの前まで歩みをすすめた。走らずに歩くその行動に、ロゼッタとクラインは焦りをみせるが、一ノ瀬は鐘の音が鳴り止む事は無いと確信しているかのごとく、遂にはゴーレムに手が届く所までたどり着いた。
未だ力が抜けるように魔力を失い続ける三人は、至近距離で見つめ合う一ノ瀬とゴーレムを見据えていた。そんな中、一ノ瀬はゴーレムの右側の手の平に自身の手を乗せ、ゴーレムに語りかけた。
「あなたが守ってきた彼女は、俺達が責任を持って守ります!だから、安心して下さい。」
そう言って、一ノ瀬はゴーレムの魔力を触れ合う手のひらから吸収していった。次期にゴーレムの背後から黄金の鐘が消えていき、鳴り響いていた鐘の音は鳴り止んだ。
一同は魔力の消失が無くなった事を確認し、ゴーレムと触れ合う一ノ瀬に視線を送った。
次期にゴーレムから過去のフラッシュバックが四人の脳内に送られた。そこには竜人族の娘が、セリスに背後から睡眠魔法をかけ、最初に訪れた広間で、複数の竜人族とおぼしき男達との戦闘のさなか、ボロボロになりながら魔導禁書を発動させ、ゴーレムと化した姿でその男達を追い払う姿が映しだされた。その後、何度も戦いを挑むセリスの姿も映しだされたが、そんなセリスに、ゴーレムとなった竜人族の娘は、一度たりと反撃する事はなかった。そして映像は先程までの戦いに移り変わったが、そこには、セリスの表情ばかりが映し出され、最後に一ノ瀬がゴーレムに語りかけた時の映像が流れ、途端に元の視界に戻った。
「「「「、、、、、」」」」
セリスを含めた四人は黙ったまま、未だ無表情のゴーレムに視線を向けた。その後、かつては竜人族の娘レインだったゴーレムにセリスは言葉を伝えた。
「百年程の間、わらわは独りきりだと思っていたが、ずっと、側にいて守り続けてくれていたのだな。間違えて生き返らせたわらわを見て落ち込むレインに複雑な気持ちを抱き、語り合う中で心を通わせ共に笑い合い、理から外れ生き返ったわらわを許さぬ者達からを守るために勝手にゴーレムに成るなど。側に要るのなら、何故わらわに言葉を投げ掛けてくれなかったのだ!?」
セリスはゴーレムに語りかけながら、いつのまにかその青い瞳から、幾数の涙を流していた。その姿を見たロゼッタが声をかけた。
「セリス?今度はちゃんと、見送ってあげよう?」
ロゼッタの言葉にセリスは、ゆっくりとした足取りで感情を失いゴーレムとなったレインに近づき、一ノ瀬と同じ様に、反対の手の平に自身の手を乗せた。
「、、、レイン。もう、よい。、、ゆっくり休むのだぞ。」
ゴーレムに微笑みながらセリスが呟いた途端、ゴーレムは瞼を下ろし、光の粒となって消えていった。セリスは最後まで言葉を発っさなかったレインの最後を静かに見送った。
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