第25話 紅の両翼

セリスの目の前に現れた同じ姿をした者は、静かに瞳を覗かせ、一同に視線を向けた。


「あれが四体目のゴーレム?セリスと同じ見た目だけど、」








ロゼッタの言葉にベルトレが反応した。


「元より、ゴーレムには決まった形は無い。先程魔法陣に取り込まれた三体のゴーレムも魔法により体の一部を変化させたのと同様に、魂の無い物とされている。」








ベルトレの言葉に、クラインは眼鏡の奥に陰を落としていたが、その事に誰も気付きはしなかった。








突如としてセリスの姿をしたゴーレムが魔法陣を展開させると同時に振り返ったセリスもまた一同に向け魔法陣を展開した。直後、一同に向け四本の金色の剣を出現させたゴーレムが、セリスを交わすように一ノ瀬達に剣を飛ばしたが、セリスもまた、四つの盾を出現させ、盾と共に剣を消滅させた。








「こやつはわらわと同じ神聖魔法を扱う!だが、今のわらわはアンデットでもあるがゆえに、全盛期の頃のわらわと同一の力を持つゴーレムにいささか劣る!わらわが足留めをしている間に攻撃せよ!」








セリスの言葉を皮切りに、ロゼッタとクラインが挟み込む様に前に出た。二人は互いの拳に炎と風の魔法を宿し、ゴーレムに左右からうちこむが、先ほどセリスが出したものと同様の盾で防いでみせた。その一方で、セリス越しに真正面から突っ込んでいた一ノ瀬に気付いたゴーレムは、瞬時に魔法陣を展開させ、無数の黄金の槍を出現させ、一ノ瀬に放った。それと同時に、再び一ノ瀬に向かってセリスは魔法陣を展開させた。






ゴーレムの放った無数の槍が一ノ瀬に向かう中、クラインとロゼッタが互いに炎と風の魔法で一ノ瀬の左右に壁を展開し、防ぎきれなかった正面の槍の前に、セリスは黄金のライオンの顔の付いた盾を出現させた。その盾に付いたライオンの顎が開き、そのまま吸い込まれるように口の中に槍が入っていき、いつの間にかゴーレムの背後で同じように虎の顔のついた盾をセリスが出現させ、開いた虎の口から先程の槍がゴーレム背に向かって飛び出した。






ゴーレムは背後を見向きもせず地面から鋼の巨大な扉を出現させ、槍を弾いたが、その間に一ノ瀬は、セリスの側まで接近していた。


「セリス、しゃがめ!」








一ノ瀬がセリスに叫び片手を前に出し、魔法陣を展開させた。それとほぼ同時にセリスはしゃがみ込んだ。一ノ瀬と目があったゴーレムが一ノ瀬に向けて魔法を放ちかけた瞬間、ゴーレムの目の前に一ノ瀬はベルトレを召還した。


ベルトレはゴーレムに、水魔法を付与させていた三股の槍を向け、同時に左右からクラインとロゼッタが魔法を発動させていた。








三方向からの攻撃がゴーレムを囲う様に迫る中、一ノ瀬はセリスの壁になるように前に出た。直後三方からの魔法が交わる様に爆発し、一ノ瀬はその爆風からセリスを庇った。








広間に爆煙が上がる中、一人爆風を直に受けたベルトレは無限回廊の入口付近まで吹き飛んで倒れていた。ベルトレは、起き上がる事無く自身の扱いに不満をもらしていた。


「、、わっ我を噛ませ犬の如く扱うとは、一ノ瀬に要らん知恵を与えよってからに。いつかあの小娘、締め上げる。」〈ガクッ〉


ベルトレは戦闘不能になった。








いまだ土煙が上がる方向を皆で見ていたが、爆発の規模から勝利を確信していた三人とうってかわり、いまだに見え隠れするゴーレムが出現させた扉を見据えるセリスの表情は、固いものだった。


暫くして土煙がおさまり出した頃、四人は土煙の中から現れた赤く筋ばった、まるでコウモリの羽の様な翼で自身を守るように包んだゴーレムの姿を目の当たりにした。










「「「「!?」」」」


未だ戦闘不能のベルトレを除き、セリスを含めた四人が驚愕するなか、ゴーレムは自身を包んでいた両翼を音も無く広げた。その姿はまるで純白の悪魔の様だった。その姿を見ている四人の中でも、一層その姿に驚いていたセリスは無意識にゴーレムに問かけた。








「ソナタ、レインなのか?」


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