やれ、魔剣ソウル・ブレード!


「エリーゼ!」


 ルーシーが倒れているエリーゼに駆け寄る。

 しゃがんで抱き起す。エリーゼの顔色は青く、両目を閉じていた。


「そんな、嘘でしょ……?」


 ルーシーはエリーゼをそっと床に降ろし、口元を押さえる。

 涙目でバードたちをにらむ。


「どうしてエリーゼを!?」


「安心しろ、まだ生きている」


 バードが淡々と告げると、バードと手をつなぐネグリジェの少女は溜め息を吐く。


「こんなに使えないなら、殺しても良かったわね」


 ルーシーは両目を見開いた。


「あなたたちはエリーゼをなんだと思っているの!?」


「生贄ぐらいの価値はあると思っていたけど、ただのゴミね」


 少女は、バードとつないでいない方の手で、自らの長い銀髪をつまらなそうにいじっていた。

 ルーシーは唇をかみしめる。

 スバルは長剣を握りなおして、低い声で笑う。


「人をゴミとか言う奴がゴミなんだぜ」


「あなたたちには私の価値が分からないのかしら? 私はイーヴィル。アドレーション帝国最高の領主よ」


「だから何だ? 自称最高の領主さんよ」


 スバルの挑発に、イーヴィルは不愉快そうに顔をゆがめた。


「憐れにひれ伏せれば、少しは楽に死なせてあげたのに」


「あいにく死ぬ気はねぇぜ」


 スバルは長剣を構える。青白い光が広間中を飛び交う。

 イーヴィルは鼻で笑う。


「魔剣ソウル・ブレードね。知ってる? バードが作ったものよ。本気で私を倒せるつもりでいるの?」


「本気じゃなけりゃ、こんな危険物を使わねぇぜ」


 天井のシャンデリアが揺れる。シャンデリアに乗せられていた、いくつものろうそくが落ち、絨毯を燃やす。

 赤々と燃え上がる炎を見つめながら、スバルは呟いた。


「バードに聞くぜ。あんた、イーヴィル様が美少女じゃなかったら、従っていたか?」


「お笑い草ね! バード、言うまでもないわ。私たちの絆の強さを見せてあげましょう!」


 イーヴィルが高らかに声を発する。

 声質は激しく、歌声を思わせるが、人間の言葉ではない。

 スバルはもちろん、ウルスラにも理解できない言語だ。

 しかし、事態の変化に嫌でもうならされる。

 両側の広間の壁にヒビが入り、鈍い音をたてて割れていく。

 割れた先には暗黒が広がり、吸い込まれそうになる。

 スバルとウルスラは両足に力をこめて踏ん張り、ルーシーはエリーゼを抱えながら床にはいつくばっていた。

 イーヴィルが声高らかに笑う。


「無様ね! 結局あなたたちは何もできないのよ。封印の異空間につないだわ。生贄として吸収されなさい!」


「……すぐに閉じるべきだ」


 バードがためらいがちに言った。

 イーヴィルは鼻を鳴らした。


「私を侮辱した愚か者たちを放っておけないわ。苦しみぬいたあげくに死になさい!」


「やれ、魔剣ソウル・ブレード!」


 スバルが気合いと共に青白い光の数々をイーヴィルに向かわせる。

 イーヴィルは床に崩れ落ちた。


「へ?」


 ルーシーが両目をパチクリさせる。


「あの、もう倒したの?」


「ああ、えっと……そうらしい。もっと粘ると思っていたが」


 スバルは拍子抜けしていた。


「バード、もしかして日頃の恨みをぶつけたのか?」


「それもあるが、他にも事情がある」


 バードはイーヴィルから手を放す。上着を脱いで、イーヴィルにかぶせた。


「封印の異空間の解放は、イーヴィル様にとって負担が大きすぎる」


「ごまかさなくていいぜ。イーヴィル様に恨みがあるんだろ?」


「封印の異空間を解放すれば、”封印すべきもの”が解き放たれる。”封印すべきもの”は、今まで封印してきたイーヴィル様に真っ先に襲い掛かるだろう」


 スバルの言葉を華麗にスルーして、バードは両手を広げた。


「そのエネルギーは、あなたたちを仕留めるのに利用させてもらう。もちろん、”封印すべきもの”がイーヴィル様を消滅させる前に」


 壁を崩した暗黒が、バードの周囲に集まり、渦を巻く。

 暗黒は青白い光をまとい、激しくうなる。

 ウルスラは額に汗をかいた。


「制御したか。さすがはソウル・マスターと言うべきか」


「この程度では制御したうちに入らない」


 バードは口の端を上げて、スバルを見据えていた。


「あなたたちの反逆は度が過ぎている。ここで死んでもらうのが世界のためであり、イーヴィル様のためだ」

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