4-6
洛桜祭当日まで二週間を切った本日より、百人余りの実行委員、および梅桜高校を交えた本格的なイベントの準備が開始される。
「今日は動き回るだろうし、やっぱジャージに着替えといたほうがいいよね」
動きやすい服装に着替えるため、生徒会会議室の隣の個室で制服を脱いでゆく雫玖と燐。もちろん、部屋はあらかじめ施錠してある。
ブラウスを脱ぎ、そしてチェック柄のスカートをスルリと足から抜いた雫玖は、
「燐、おっぱいデカッ。うらやましいなぁ、モデル体型。私、いかにも女子高生ってカンジの体型だし」
燐もスカートを脱ぎ、下着姿で体操服を手に取りつつ、適度に主張されている雫玖の胸の膨らみに熱い視線を送って、
「それはそれでエロい身体つきじゃない。男心はよくわからないけど、肉付きは結構大事よ」
そうかな? 照れ笑いを浮かべた雫玖は、
「もし今、ここに佐久間が入ってきたらどんなリアクション取るんだろ? ま、どうせツマンナイ反応するかな」
「ラッキースケベからかけ離れた男子高校生よ、佐久間くんは。想像できないわね」
と、談笑をしつつ着替えをしていた、――――その時であった。
ガラリと、開くはずのない、開いてはならない引き戸が開かれて、
「ああ、二人とももう――――……ってうわっ!」
現れたのは、今まさに話題にしていた佐久間導寿。滑るように足をバタつかせ、黒くて長い髪を大きく振り回す。
「キャァ!! 燐、さっき鍵かけたよね!?」
「佐久間くん、さっさと閉めなさい!!」
即座に下着を腕、衣服で覆った二人、佐久間も慌てふためいた様子で、
「あ、ごめん!」
そうして扉は勢いよく閉められた。
残る二人は顔を赤らめつつも、少しの間お互いの顔を見合わせ、
「くっ……ふふっ……。何なの、あのリアクション……ははっ」
「ははっ……ふふふっ……、佐久間くんってあんなリアクション取るのね」
場合雑言を吐かれることはなく、なぜか笑われてしまう佐久間導寿であった。
新
「佐久間、梅高と飲み物の価格調整ってまだだったよね? たしか去年を参考にしただけのような……」
「佐久間くん、梅高が出す飲み物の種類を実行委員が教えてほしいって」
「まとめて向こうのリーダーに訊いてみるよ。秋月さん、番号を教えてくれる?」
燐は口頭で電話番号を伝えると、
「……――三五二……一三……」
リズムに乗るように、上下に細身を動かしながら電話のディスプレイをタッチする佐久間。
(どうしてリズムに乗ってるのかしら……?)
そうして佐久間は受話口を耳に当て、
「えー申し訳ありません、わたくし洛葉高校の佐久間と申します。東浦さんですか?」
(なんで謝るのかしら……?)
燐の疑問などいざ知らず、佐久間は数分間の電話を終え、飲み物の種類をメモした紙を燐に渡しつつ、雫玖には、
「紙コップ一杯で八十円が適正だって。去年の七十円だと赤字になったとか」
「でも佐久間、利益を考えたら百円くらいのほうがよくない? ここで黒字にしておけば、他で赤くなっても挽回できるよ」
佐久間は顎に手を当て、
「それも一理あるね。けど、飲み物って来客が一番買うものだと思うんだ。来る側を考えると、やっぱり安いほうが喜ばれるよ」
「来る側を考える……、なるほど、そっか」
「出雲さん?」
雫玖は恥ずかしげに口元を緩めて、
「来てくれる側のこと、最近は見落としてたかも……。誰のために洛桜祭があるか、しっかり考えないと」
「そうね、企画に夢中だと見落としがちになるものね。私も気をつけないと」
「二人だっていろんなことに気を配れてると思うけどね」
雫玖はゆっくりとした首の動きで否定を示し、
「ううん、私はまだまだ。気づかせてくれてサンキュ。じゃ、みんなに伝えてくるから」
「佐久間くん、今度はオバケ屋敷班の所へ行ってあげて。あっこ、人手が不足してるから」
そうして佐久間から情報を受け取った燐と雫玖は、それぞれの持ち場へと戻っていく。
と、その時、手中のスマートフォンが振動する。メールが一通届いたらしい。差出人は『鳴海愛依』、彼女からの通算六通目のメール。
「…………」
携帯電話をポケットに入れる佐久間。そして校舎裏ではなく、オバケ屋敷班が汗を流しているであろう一年昇降口前へと向かって行ったのであった。
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