4-5
――――呼び出されたのは、放課後ではなく昼休みの時間だった。
人通りの少ない廊下奥、家庭科室の手前の場所。たしかそこは、以前呼び出し主から告白の手伝いを懇願された場所。
「あれ、秋月さんも呼ばれたの?」
佐久間に続いて、燐も周囲を丁寧に警戒しながらここへとやって来た。
「佐久間くんも……。ということは――……」
罪悪感を蔭らせた瞳を彼女が揺らしたその時、
「――――私、知ってるから。愛依があんたにリーダー押し付けたこと」
顔を合わせる二人の前に立ち現れた、出雲雫玖。彼女には稀有な、怒りの気配を顔に滲ませ、
「どうして私に教えなかったの?」
詰め寄る彼女を遮るように、佐久間を擁護するように燐は前に出て、
「佐久間くんだって悪気があったわけじゃないわ。鳴海さんはその……雫玖の友達だし、雫玖には嫌な思いをさせたくないと踏まえて……」
「私と愛依が……友達だから? 嫌な思いを……させたくないから?」
すると雫玖は立ちはだかる燐を押しのけ、佐久間に面と向かい、強い視線を惜しみなくぶつけて、
「見くびるな、バカ!!」
強烈に放たれる、甘さの残るその声は廊下に強く反響した。
呆気にでも取られたのか、雫玖を前にして押し黙る佐久間。その雫玖も、黙然と佐久間を睨み続ける。
だが、
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。……何でだろう?」
「ハァ? なにが言いたいの?」
「佐久間くん……?」
なぜか、佐久間は簡単に笑って、
「いや、ボクって本当に出雲さんを見くびってたんだって。だけど、出雲さんが強くて安心したよ」
いくつもの疑問符を頭上に浮かべた雫玖は、露骨につくった嫌な顔を佐久間に見せつけ、
「なんか上から目線なんですけどー? 保護者かっての」
「ごめん、いい気分になると変なことを口走っちゃうからね」
「それ、いつものことでしょ……」
納得したようなしていないような、何とも言い難いもどかしい表情を浮かべるも、
「ともかく」と重いため息交じりに雫玖は、
「今度から隠し事はナシにしてよね? たとえ愛依のことでもちゃんと教えて。私も一緒に考えてあげるからさ」
「わかった、次からは出雲さんも頼るよ。出雲さんも加わってくれると助かるし」
燐はやれやれと、しかし満更でもなさそうに、
「ほら、言ったとおりじゃない。雫玖は佐久間くんをちゃんと見てるって」
「そうだね。それにボクは出雲さんだけじゃなくて自分も見くびってた」
「そうそう、もっと自分に自信を持ってよ?」
と、雫玖は佐久間に言い聞かせるも、――一転して彼女は上目使いで、
「この流れで言うのも何だけどさ、実は佐久間にお願いがあるんだ……」
「ボクに?」
雫玖はかつて見せた、パチンと両手を合わせた格好で勢いよく頭を下げ、
「お願い、――――リーダーやってくれないっ?」
佐久間は数秒の間、黙々と雫玖を見たのち、
「小泉くんに悪いよ。それにボクを過大評価してもらっても困る、大した人間じゃないし」
佐久間が断りを入れると、
「その小泉くんからもキミにお願いがあるそうよ」
割って入った燐は、スマートフォンのディスプレイを佐久間に示す。『俺からもお願いだ。佐久間、お前のほうがリーダーに適任だと思う』、それは紛れもない
「有能なのは私も否定しないわ。リーダーの適正があるかどうかはともかくとして」
「有能だとしても、ボクこそ上に立つより後ろで文句を言うほうが性根だし。……けど」
佐久間はメール、燐、――そして雫玖の真剣な眼差しを瞳に映し、
「――――わかった、やってみるよ。ボクと一緒に最高の洛桜祭を完成させようか」
◇
鍵の返却を済ませ、本日は一人で下校をしようとした時であった。
「なあ燐、一緒に帰ろうぜ」
声に併せて、背後から隣にやって来たのは幼馴染の小清水蒼斗。
「何だか最近、蒼斗とよくしゃべるわね。不思議、洛桜祭の準備で忙しいはずなのに」
「あの出雲が……そうさせてくれたんじゃね?」
「そうかもね。中学から……だったかしら? 会う機会が減ってきたのは」
「だな。なんかお互い、忙しくなってきたというか何というか」
燐は口元に手を宛がい、クスリと笑って、
「たまには家に来る? 宿題を教えてほしいし。私の学力はもちろん知っているでしょ?」
「それ、果澄に勘違いされるパターンに絶対なるって。『お姉ちゃんと蒼斗くん、二人きりでお部屋で……むふふっ』なーんて展開だな、どーせ」
ニヤリとする蒼斗だけれども、大きなスポーツバッグを肩で掛け直して、
「そんじゃ、お邪魔させてもらうわ」
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