3-8
クエスト後はたまたま合流した同級生らと買い物を楽しんだ雫玖たち。そうして日が暮れた頃合い、最後は観覧車で終わろうという話になり、
「観覧車に乗るのなんて久しぶりかも~」
暗闇の空の下、七色に彩られる大きな観覧車に雫玖は瞳の奥を輝かせる。
「私もずいぶんと久しぶりね。たしか三年前、お姉ちゃんと果澄と乗ったのが最後かしら。きっと佐久間くんも久しぶりでしょうけど」
「そうだね、乗る機会はほとんどないし」
そうこう話をしているうちに前の列は徐々に消化され、満を持してゴンドラに乗り
込む三人。雫玖と燐が並び、その対面に佐久間が座った。
「佐久間くんはラッキーね。私たち二人と密室で素敵な一時を過ごせるのなんて」
「うん、そうだね」
気に留めもせず適当に返した佐久間に、燐はわずかに膨れ面。
「はっ、そうじゃん! 私、男子と密室! ……ま、佐久間なら大丈夫か」
「見かけで判断するのはよくないわよ? ひょっとしたらこの男でさえも、空気に流されて猛獣に化けるのかもしれないし」
「高い所で暴れると危ないから、ボクは大人しくしてるつもりだけど」
「もー、つまんないこと言う」
小刻みに笑って佐久間を咎める雫玖であるが、ふと彼女は顎を上げて、
「あーあ、蒼斗くんも来てくれたらよかったのになー。……ってゴメン佐久間! 佐久間だからツマンナかったとか、そういうつもりじゃないから!」
「大丈夫、わかってるよ。でも、元々は小清水くんを誘って断られたから、ボクを代わりに誘ったんだよね?」
「え、いや……」
困り顔で雫玖はしゅんと肩をすくめる。だけれども、
「私は蒼斗を誘ったあと、元から佐久間くんを誘うつもりだったけど? 佐久間くんが一緒だと何かと気楽だもの」
「わ、私もだから! 燐もだけど、佐久間のことももっと知りたかったのは本当!」
「そっか」
短い返事を投げると、佐久間は二人から背く形で外を眺める。ゆっくりと昇るゴンドラの高さは、まだ全長の半分ほど。
「そもそもボクって、どうして来ようと思ったんだっけ? あ、ほーっしーくんグッズをいとこに買うためか」
「名前、覚えられるようになったんだ。佐久間も成長してるじゃん」
「それはいくらなんでも佐久間くんをバカにしすぎじゃない……?」
佐久間はハハッと笑ったが、
「グッズのために来たけど、――――今日はここに来ることができてよかったよ。ありがとう、二人とも。ボクを誘ってくれて」
「佐久間……」
「佐久間くん……」
面食らって自身に注目を集めている燐、そして雫玖を、佐久間は順に見て、
「二人と一緒にいられる理由みたいなものを、今日は秋月さんから教わったよ。それに出雲さんを見て、ボクも少しは洛桜祭に貢献したくなった」
「どういたしまして。私も楽しかった。たぶんこの一日は忘れないと思うわ」
「私は……前までは二人と出掛けるなんて考えられなかったから、今もちょっと不思議な感じはするけどね。けど、今日は心から楽しめたかも」
「あら、いつものお友達と行動することが楽しくない、みたいな言い振りだけど?」
「んーと、そういうわけじゃないんだけど。なんて言うかなー、ほら、私って……流されるタイプじゃん? こないだ燐にも言われたけど」
「雫玖……」
「けどね、今日はそうじゃなかったと思う。したいって思ったことができたかな?」
そうしてはにかみはしつつも、雫玖は佐久間に顔を向け、
「佐久間に……立派なことをしたつもりはないけど、でも洛桜祭を手伝ってくれるなら嬉しい。一緒にがんばろ?」
「そうね、私たちと一緒に――……」
おもむろに瞳を閉じた燐、近い過去を回想するかのごとく。雫玖も燐に倣うように、薄っすらと目を細める。
そして、
「素敵な眺め、だね」
「キレイ……」
「私たちの住む街って、こんな世界だったのね」
闇に染まる広大な天空、一面に敷き詰められた煌めく星々。見下ろせば、夜空に負けず光り輝く街々。このショッピングモール、そして視界にあるはずの洛葉高校もその例外ではない。
佐久間は目元の前髪を指で掻き、黙然と景色を眺める。ついでに、ガラスに薄く反照する出雲雫玖、秋月燐も。
「…………」
雫玖は見惚れた様子で景色にうっとりと、
「またいつか、この景色を見たいね」
「そういう機会はなかなかないと思うけど、見られるなら……そうね。また、いつか」
燐は瞼を緩めたのち、しなやかな細い指をガラスに掛け、
「いつか、この景色を――……」
独り言のように彼女の口から紡がれる、小さな小さな音色。
ふと、佐久間はその口元を目にする。確かに彼女はその名を口の動きで示した。
「…………、そっか」
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