3-2

「おーい、こっちこっち!」


 遠くから届く弾んだ声を頼りに、佐久間は集合場所へとマイペースで赴くと、


「おはよう、佐久間くん。どうにか間に合ったみたいね」


 柱にもたれてやれやれポーズをしているのは、佐久間を誘った一人である秋月燐。腰下を覆うグレーのスウェットを上半身に纏い、膝下を露出させる程度の黒いスカートでその身をあしらっている。普段の制服姿とは別様のカジュアルな雰囲気だ。


「おはよ。もぉ、外出に慣れてないから迷子になるんだよ。もっと外に出る訓練をしないと」


 燐とは対比的に、前屈みでグイッと佐久間に詰め寄るのは出雲雫玖。白シャツの上に黒いジャケットを羽織り、下は黒のパンツ姿。秋物らしい格好だが、燐と比べればより大人らしさを思わせるコーディネートだ。


「ごめん、ここ広くて」

「せめてコーデに凝って遅刻しそうになった、って言えるような服を着てきてよ。なに、その引きこもった大学生ってカンジの格好?」

「オシャレしろとは言わないけど、平均に近づける努力くらいはしなさいよ。一人ならともかく、今日は私たちと一緒なんだし」

「いやあ、私服なんてこれともう一着しかなくて。服にはお金を掛けないんだ」


 ハハッと笑う彼の服装は無地の長袖シャツにジーンズと、かなりラフな格好。集まった男子らと比較しても、その差は顕著だ。


「私服と言ったら秋月さんは予想外だよ。大人しめの感じだと勝手に決めつけてたけど」

「そうだよね、なんか意外かも。燐もオシャレするんだ」

「佐久間くんほどではないにしても、私も地味めにしようとは考えていたのよ。けどお姉ちゃんがこれを着てけって言うから、仕方なく……」

「いいお姉さんじゃん。あーもう羨ましいなぁ、お姉ちゃんっ」

「ちなみに私には姉だけじゃなくて、妹もいるわよ」


 と、燐が片目で雫玖へと目配せをしたその時、


「どうも~、その妹のすみでーす!」


 燐と雫玖の間からひょっこりと現れた、幼さ残る顔立ちの女の子。はーいっと元気に右手を挙げ、二人の間を抜けるや否や、クルンと身体ごと雫玖に顔を向けて、


「あなたが雫玖さんですねっ。燐お姉ちゃんからたびたびお話しを伺っております!」


 手を取り、雫玖にペコリと頭を下げる果澄。


「へぇ、妹もいたんだ。うん、よろしく果澄ちゃん」

「はい、よろしくですっ」


 すると燐は、頭半分ほど低い妹の頭をポンと叩いて、


「私がここに行くって言ったらこの子、『私も!』って張り切っちゃって。ま、お友達と回るらしいから迷惑にはならないけど」

「元気いっぱいの妹ちゃんだね。よかったら果澄ちゃんも、お昼は私たちと食べない?」

「はい、ぜひご一緒させてください。燐お姉ちゃんが友達をつくるなんてすごーく珍しいので、楽しみにしてますよ」

「え、珍しいかしら? 私だって片手で数えきれない程度には友達いるし」

「それで満足する人って……」


 果澄も「そうそう」と、腕組みをつくってうんうん頷いて、


「あたしもはるお姉ちゃんも心配してるんですよね。もうちょっと人付き合いに興味をもってほしいって」

「中二のクセしてお母さんみたいなこと言わないの。雫玖、恥ずかしい妹でごめんなさい」

「恥ずかしい妹で悪かったですー」


 果澄はべぇーっと姉に舌を見せたが、


「そういえばお姉ちゃん、今日は男の子も誘ったって言ってたよね!? 紹介して紹介してっ」


 まるで欲しいゲーム機をねだる子どものように、目をキラキラと輝かせる果澄。


「さっきからそこにいるじゃない。そこの彼のことよ」

「そこって……どこ? あの男子チームにいるの?」


 果澄はキョロキョロと周りを見るが、燐は彼へと変わらず目配せを続け、


「そっちじゃないわ。ほら、そこにいるじゃない」

「……? ……ってわっ!?」


 ピクンと震え、驚きのポーズで佐久間を警戒、そして後退り。


「あ・く・ま・で佐久間くんはただの知り合いだから。決して私の好みが佐久間くんってわけじゃないから、ぜーったいッにないから、そこは安心して!」

「うーん……」


 だからと言って果澄は腑に落ちた様子でないものの、


「秋月果澄です。今後とも姉をよろしくお願いします」

「あ、秋月さんにはお世話になってます」


 礼儀正しくペコリと頭を下げる果澄に合わせ、同じく頭を下げた佐久間。

 そうして果澄はやって来た女子友達らを見つけると、


「じゃあね~燐お姉ちゃんに雫玖さん、それに佐久間さん。またお昼にお会いましょう」


 彼女は駆け足で同級生らと合流し、一足先を行くのであった。


「さて、全員が集合したことだし、今からは各自自由行動でいいかしら?」


 皆が燐の提案に賛同し、各自が三人から四人程度の集まりをつくり散っていった。それは佐久間らも例外ではなく、


「じゃあ燐、佐久間、約束どおり一緒に行こ? 最初はどこ行きたい?」


 準備万端な雫玖は二人に問いかけると、


「そうね、まずはここから近いオバケ屋敷なんかどうかしら? 洛桜祭でもオバケ屋敷は出し物の候補の一つだし」

「お土産が買えればボクはどこでも構わないよ」

「じゃ、オバケ屋敷にしようか。ふふ、ここのオバケ屋敷怖いって評判なんだ。知ってた?」


 と、雫玖が楽しそうな顔ばせで佐久間とオバケ屋敷に向かう中、燐はきょとんと首を傾げ、


「……え、怖い?」

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