3章 結びついた彼女らは三角関係じみたラブコメへ、そして彼は彼女らの知り合い

3-1

 授業と授業の合間時間、佐久間導寿は次の科目の教科書類を整理していると、


「あの二人……?」


 廊下では、クラスメイトの小清水蒼斗が二人の女子生徒と何やら話をしていた。それ自体はさほど特別な光景ではないのだが、今回ばかりは女子のほうへと注意が向かう佐久間。


 ――――出雲雫玖と秋月燐。


 話題の中身はよく聞こえないが、二人が蒼斗に対して誘いをかけているようには見えた。が、佐久間には関係のないことなので、彼はトイレに向かおうと廊下を出ると、


「さーくーまー、ちょっといい?」


 後方からの声が、彼の足を止めた。

 女性のような滑らかな手つきで髪を掻き上げ、佐久間はサッと振り向くと、


「……出雲さんに……秋月さん? どうしたの、並んで?」


 対面しているのは、つい先ほどまでは蒼斗と相手していたペア。

 声を掛けたほうは出雲雫玖。セミショートの毛先をふわふわとセットした、年相応に背伸びした跡が垣間見られる同級生は、愛らしいパッチリした瞳でルンルンと佐久間を見ている。

 一方の、


「昨日決まったことだけど、佐久間くんも一応は誘ってみようと思って」


 背中に掛かる黒髪が誰よりも際立つ秋月燐は、普遍的女子高生からはかけ離れた天性の美貌を惜しげなく佐久間に向け、何やら提案をしてきたのだ。

 そんな華やかな二人組と顔を合わせる、地味で華の欠片もない男子高校生はメガネの位置をクイッと直して、


「誘う? 生憎ボクは企画委員に興味ないけど?」

「違う違う、そうじゃないって。今度の土曜、企画委員わたしたちと一緒にお買いものしないかってお誘いだよ」

「買いもの? 基本的に通販で済ませるから、外で買い物はしないよ」

「うわ、本格的なヒッキーじゃん……。部屋にキノコとか生えてそう……」

「ったく、休みの日くらいは外に出なさいよ。もやしみたいな身体がいつか腐るわよ?」


 と、二人はチクリと漏らしつつ、


「今はハロウィンの時期でしょ? それで洛桜祭の参考も兼ねて、みんなで港のショッピングモールに行かないかってハナシになったのよ。特別に佐久間くんもどう? てこと。というか来なさい」


 佐久間は教室内の蒼斗にひっそりと目配せをし、すぐに前方へと視線を戻して、


「ボクを誘うくらいなら女友達でも誘ってみたらいいのに。……ああ、秋月さんゴメン」

「無自覚に鬼畜ね、キミは」


 ふぅ、と燐は呆れ気味に吐息を漏らしつつも、こめかみには血管が浮き出ている。


「誘う人に困る秋月さんはともかく、出雲さんもボクを? たしか鳴海さんも企画委員だったよね?」

「今回は燐と回りたくて。愛依とかは教室でも休みの日でもよく一緒だし。けど燐とは過ごしたことはないから……佐久間もね? というか、愛依は用事で来れないとか」


「なるほど。そもそも秋月さんが参加するなんて意外だね。てっきりそういう誘いは断るタイプかと思ってたけど」

「テレビで特集されている所だし、気にならないと言ったら嘘になるから。それに、」

「それに?」


 燐は薄く張った氷のようにほんのりと恥じらいを顔に浮かべ、ちょっぴり視線を外して、


「お姉ちゃんがお土産買ってきてほしいって言うし……」


 キュンと胸を射抜かれたように、雫玖はぴょこんと軽く跳ね、


「へぇ、『お姉ちゃん』って呼んでるんだっ。萌えるかも~」

「な、何が悪いのよっ」

「てっきり燐のことだから、堅苦しく『姉さん』とか呼んでるかと」

「家族相手にはそんなに堅苦しく接しないわよ」


 むむっと雫玖に目をぎらつかせる燐。雫玖は「ごめんね」と笑いながら軽く流す。


「港のショッピングモールって……、あの? あそこ、テーマパークとセットだよね」

「よく知ってるわね。興味はあるのかしら?」

「前に園児のいとこがテレビの特集に食いついてたんだ。マスコットを気に入ったらしくて」


 たしか星型のマスコットだったと、佐久間は思い起こす。その外見から子ども、女性からの人気を集め、グッズ欲しさで施設を訪れる人も多いらしい。


「そんじゃ佐久間、そのいとこにお土産を買ってあげようよ? きっと喜ぶよ? ネットじゃ買えないグッズもいっぱいあるらしいし」


 佐久間は悩んだ素振りを十秒ほど見せたものの、


「わかった、ボクも行くよ。それに秋月さんの言うとおり、たまには外出しないとね」

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