2章 友達からかけ離れた女子高生、そして友達づくりには自信のある女子高生
2-1
「企画委員は無事決まったことだし、そんじゃ実行委員をやりたいヤツはいるかーっ?」
ホームルームの時間、教卓の前の委員長がクラスメイトを煽るように、握りしめた拳を大きく上げる。すると数人の、とりわけ女子らがお互いを誘い合いながら挙手をした。
「おっ、みんなヤル気があってよろしい」
委員長は挙手の面々を紙に記録していく。だがしかし、
「うっ、ううんん? んんんんんんんっっ?」
挙げられた彼の長細い腕を見て、委員長はピタリと凍りついた。それに呼応し、周りのクラスメイトも皆が皆、話をやめて彼に注目を集める。
委員長は恐る恐るの上目使いで、
「さ、佐久間くん? 珍しいね……、こういうイベントに参加するなんて。えっと、誰かに脅されてる、とか? 大丈夫、いじめられてない? 困ったことがあったらいつでも
その心配をきっかけに、クラスメイトたちはざわめき始める。「最近は七組の出雲さんと仲がいいとか……」、「あの秋月燐とも一緒らしいって……」など、各々が勝手に憶測しては盛り上がっている。
クラスメイトの一人、小清水蒼斗も興味津々に親友を覗き込み、
「みっちー、洛桜祭に興味あんの? マジか、みっちーも変わったなぁ」
感心する蒼斗を余所に、佐久間導寿は委員長の動きを見届け、スッと手を下ろした。そして彼は一人回想する。――――なぜボクが今、こうして挙手をしなければならないのかと。彼女とのやり取りを交えて。
◆
一年生ながら生徒会副会長、奥ゆかしい長い黒髪の女子高生、秋月燐は口を付けたカップをソーサーにコトンと置く。衣替えの季節、涼しげな半袖の白い夏服から、紺のブレザーに衣が変化していた。
静かな間を味わうように息をつき、年離れした落ち着きある所作で前方の男を見て、
「キミを呼んだのは他でもないわ。――――洛桜祭に関わりなさい」
振る舞いとは打って変わった遠慮のない命令口調で、彼女はそう言い放つ。
その正面の男は燐に負けないほどの長い髪を、彼女に対抗でもするかのようにサッと靡かせ、
「そもそもその洛桜祭とやら、ボクはよく知らないんだ。六月の学園祭とは違うものなの?」
「この学校にいて洛桜祭を知らないのなんて、それこそ佐久間くんくらいしかいないわよ。洛桜祭がキッカケで
「ボクは偏差値と進学実績で選ぶタイプだからね」
「現実的な意見ね……。素直でよろしい」
とはいえ、イベントに憧れたからハイ入りますと入学できる入試難易度ではないことも事実。
「話は戻すけど、洛桜祭というのは要するに、近隣の梅桜高校と共同で創り上げる行事のことよ。今年はこの高校が会場ね」
「どういうイベントなの?」
「大体は学園祭と一緒。模擬店があったり部活動単位で何かを披露したり、
「ハロウィン……ということは、開催は十月の下旬ってこと?」
「そうね、あと一か月。余裕があるとは思いがちだけど、案外あっという間よ。六月の学園祭でそれを痛感したわ」
続けて燐は、洛桜祭の企画組織として『
「おおよそ十五人で構成された企画委員の役割は、名前のとおり洛桜祭全般の企画。学校組織でいう生徒会のような立ち位置ね。対して実行委員は総勢百二十名ほどの協力者たち。飾りつけや舞台の設置やら、基本的には肉体労働がメイン」
「そっか、ふぅん」
佐久間は無関心な素振りを見せるが、だからと言って燐がそのまま返してくれるはずはない。
燐は彼のその心情を察したのか、離さまいと視線を強め、
「もう一度言うわ、キミも洛桜祭に協力しなさい」
「ボク、実家が仏教だし。無理だよ」
「それ、言い訳のつもり? 佐久間くんだってクリスマスはお祝いするでしょ?」
「キリストの生死なんて興味ないから。クリスマスにケーキは食べるけど、キリストなんて祝ったことないよ」
「チッ、屁理屈を並べて……。ふふっ、だけど私には借りがあるはずよね、キミ?」
「ないよ」
「出雲さんの件、覚えてないの? 微細ながら私は彼女の恋を、つまりは佐久間くんを手伝ってあげたのに」
「あれは手伝ったうちに入らないと思うけど……。というか、秋月さんが勝手に協力してきたような」
しかしながら、強情な燐を簡単に崩せそうもなく、
「……わかった、ただし実行委員としての参加だから。企画とか、時間が取られそうなのはゴメンだよ」
「正直私だって、そこまで関わりたくないの……。ただ生徒会役員って立場上、どうしてもね。集団で行動するの、……慣れてないのよ」
幾分か視線を落として、燐は不安げに不満がる。
「ま、だからこそ佐久間くんを誘ったんだけど。実行委員とはいえキミが力になるのはありがたいし。出雲さんへのアプローチを見させてもらって感じたわ」
「過大評価だね。雑用以上の働きを求められても見返りはないよ」
「そ、過大評価したつもりはないのに。ともかく佐久間くん、逃げたら承知しないから」
口元を意味深に引いた燐。こうして彼女の思惑どおりに事が運ばれたのであった。
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