2-2

 翌日、放課後。


「それでは洛桜祭企画委員による、第一回目の会議を始めたいと思います」


 生徒会会議室に集う十五名、その面々を前に場を仕切る生徒会副会長、


「今回、各クラスから選ばれた十四名の皆さんと私、総勢十五人が中心となって洛桜祭を創り上げていくことになります」


 燐の言う洛桜祭とは、彼女らの通う洛葉高校と近隣の梅桜高校が協力して創り上げる行事のことである。企画者はおおよそが両校の一年生で占められ、ハロウィンを踏まえた、学園祭にも似たそのイベントは、ローカルのテレビ局が毎年取材に訪れるほどの盛り上がりを見せる。


「それでは一回目でもあるので、各自簡単な自己紹介をお願いします」


 燐がまず初めに、皆の注目を目配せで惹きつけ、


「私は八組の秋月燐です。企画委員として、また生徒会役員として洛桜祭に貢献できるよう、頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします」


 パチパチと拍手を送られた燐は、綺麗な黒髪を垂らすように軽く頭を下げた。そして彼女に続いて、一組の生徒から意気込みを交えた自己紹介が行われていく。

 燐は乾いた拍手を送りつつも、自己紹介は気持ち半分で聞き流し、


(ったく、なんでバカどもがここにいるのよ……っ)


 決して顔には出さないものの、心の中でムッと舌打ちして不満顔。


(身なりで判断するに、三分の一は厄介なメンツね)


 三分の二は無難な、悪い言い方をすればモブのような面子だが、残念ながら残りはアレ。雰囲気からして、「私たち、みーんな友達です」とでも上辺だけで笑っていそうな顔ぶれだ。

 そしてその中には偶然にも、


「――――七組の出雲雫玖です。去年経験させてもらった洛桜祭はすごく思い出深いものだったので、今年もそれに負けないよう、頑張って協力しますっ」


 キュートな声による自己紹介、地味な男子らが忍びに雫玖に向けて視線を送っている。


(ああ……、もうっ)


 つい先日のこと、佐久間導寿という得体の知れない男とともに恋に挑んだ女子高生。それも彼女が想いを寄せているのは、よりにもよって燐の幼馴染。

 彼女を目にすると、あの甘酸っぱさ香る告白のシーンが鮮明に頭によぎる。その日以来、蒼斗との微妙な距離感を思い出し、胸につっかえができたようで無性にモヤモヤするのだ。

 企画委員の面々は燐の胸中など知る由もなく、次の一人、長い金髪が映えたあの女に視線を移して、


「あたしは鳴海愛依、雫玖と同じ七組。去年友達と洛桜祭に行って、楽しいイベントだと個人的に思いました。企画のほうも面白そうだと思ったので、思い切って企画委員に立候補してみました。よろしく~」


 簡単にウインクをした彼女は、ゆらりと腰を下ろしたのであった。

 燐は拍手すらせず、おもむろに目を閉じ、


(面白そうだとかほざいてるけど、結局はお友達に誘われたから仕方なく参加しただけでしょ。半端な覚悟で来られてもこっちが困るのよ)


 特に出雲雫玖。


(バレバレなのよ、蒼斗の件だって。友達がヤリまくってるから自分も……って思っての告白なのでしょうけど。勝手に幼馴染を巻き込まれて迷惑なのよ)


 どうせ今回の参加だってそう。友達の鳴海さんから適当な気持ちで誘われて、曖昧な決意でここに顔を見せているはず。


(まったく、迷惑なのよ)


 そうして十五名の自己紹介は終わり、


「それでは続いて、企画委員長決めに入りたいと思います」


 総勢百人強の上に位置する企画委員長。リーダーとも呼ばれ、主な役目としては企画の立案責任、企画・実行委員への指示、洛葉高校代表、開会あいさつ、梅桜高校との連携などがある。生徒会長いわく、リーダー次第では洛桜祭自体が揺らぎかねないほどらしい。

 立候補者がゼロならば半強制的に燐がリーダー役を任されてしまうので、頼むから誰か手を挙げてと燐は祈っていると、



「はーい、あたしやってみたいんですけどー?」



 手を挙げたのは、――――まさかの鳴海愛依。


(うそ、でしょ……?)


 面々は黙って彼女を眺め、愛依の友達らも「愛依がやんの、大丈夫?」、「うわー意外、でも愛依がリーダーって面白そ」と、心配と楽観半々に声を掛ける。


(鳴海愛依……七組の女王蜂……、いい噂は聞かないのよね。男をとっかえひっかえしてるとか、不純異性交遊に勤しんでるとか……)


 良い点を探すとしたら、上に立つ資質に関しては決してゼロではないという点か。


「どーやら他にいなさそうだし、あたしでいいよね? ね、秋月さん?」

「鳴海さんに仕切りができるなら……まあ……いいけど」


 心なしの嫌味を込めて愛依に返すと、愛依の取り巻きたちは燐をチラチラしながらヒソヒソと陰口。

 が、当の愛依本人は自信満々に口元を綻ばせ、


「大丈夫だって、あたし友達いっぱいいるし。それってつまり、みんながあたしを慕ってくれてるってことっしょ?」


 すると取り巻きは一転して、クスクスと燐を軽侮する。


(ぼっちウケル~~って言った女、いつか殺す……ッ)


 真っ赤な心の内とは裏腹に、燐は愛依に会釈し、


「それでは、リーダーは鳴海さんにお願いします」


 こうしてリーダー決めまでを終え、初の洛桜祭企画委員会議は解散となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る